孫氏の独特のマネジメント・コントロール実践については、ここでは述べられないが、創意工夫に満ちている。一体こうした経営の素養を孫氏はどう身につけたのだろうか。伝記を読むと、子供の頃から実家のビジネスを手伝い、また経営書の類をむさぼるように読んだと書かれている。また経営者の主催する勉強会にたくさん出席し、これはと思う経営者に会いに行っている。彼はビジネススクールには通っていないが、自習や勉強会などの機会をとらえて、猛勉強した人である。そしてそれを実践した人なのである。
ソフトバンクの2014年3月末決算書を見ると(アリババ株の含み益はまだ表現されていない)、莫大な無形固定資産(買収時に支払ったプレミアム金額)と有利子負債の大きさが目を奪う。孫氏の迫力、勇猛果敢さがそのまま伝わってくるようである。
孫氏は大ボラと謙遜するが、「時価総額200兆円企業になる」というビジョンが明快な方法論に裏付けされているとしたら、あながちホラには聞こえない。孫氏はギャンブラーのように受け取られているし、彼の勇気はマネできるものでもない。しかし彼の緻密な戦略性や方法論は、ベンチマークすべきである。「勇敢な経営者」を育成するのは難しいが、「緻密な戦略的経営者」を育てることはできる。