第一のグループには、この課題を4分間続けてもらった。第二のグループには、2分経過した時点で作業を中断してもらい、別の課題――単語の一覧を見て、同意語を挙げる――をさせた(代替用途テストと類似の、創造性を必要とする課題だ)。5分後に完了すると、再び最初の課題に戻り2分間作業をさせた。最後のグループにも、開始から2分後に中断してもらい、性格診断テストの一種であるマイヤーズ・ブリッグズ・タイプ指標(代替用途テストとは無関係の課題)に5分間取り組ませたあと、再び最初の課題に戻り2分間続けてもらった。

 いずれのグループも、紙の用途を列挙する課題で与えられた時間は同じ4分である。こうして研究チームは、創造性に関する3通りのケースを比較することができた。①中断することなく課題に取り組んだ場合、②中断し、類似の作業を行うことで温め期を設けた場合、③中断し、無関係な作業によって温め期を設けた場合、である。

 その結果、最初の課題を中断して無関係な作業(マイヤーズ・ブリッグズ・テスト)を行った③のグループが、最も多くの用途を思いついたのだ(平均9.8件)。類似の作業によって中断したグループが2番目で、平均7.6件。中断せずに4分間続けて作業したグループの成果は最も少なく、平均6.9件だった。この研究により、アイデアを無意識下で温める時間をたとえわずか数分でも取ると、創造的なアウトプットを有意に高められることが示されたのである。

 なぜこういう結果になったのか。1つ考えられるのは、人は複雑な課題に直面すると、思考が行き詰まって堂々巡りに陥りやすいということだろう。休まずに1つの課題をやり続けると、すでに思いついたアイデアに捕らわれてしまいがちだ。1枚の紙の使い方を同じパターンで考え続け、別の可能性を見出せなくなるのだ。課題からいったん離れて何か別の事柄に全意識を集中させることで、1つのアイデアに縛られている状態をリセットでき、古い思考パターンの記憶を薄れさせることができる。その後、最初の課題に戻る頃には、新たな可能性に対して意識が開かれている。つまり、ひらめく瞬間が訪れやすい状態になっているのだ。

 さらに興味深いのは、エルウッドらの研究結果が、予定の詰まった多忙な人にも朗報だということだ。実験で、最初の課題とは無関係な作業に切り換えた学生が、最も多くのアイデアをひねり出したことを思い出してほしい。つまり、新たな発想を要する状況下で、課題をうまく「温める」には、課題とは無関係だが仕事には関連する作業を行えばよい。まったく別のプロジェクトでもいいし、もっと日常的な作業、たとえばeメールに対応する、コンタクトレンズを洗うといったことでもいいだろう。

 意識を目の前の課題から他の何かにそらし、小休止させる。そうすれば、再び課題に戻った時にひらめきを得る可能性が高まるはずだ。クリエイティブなアイデアがどうしても必要なら、1日のスケジュールをちょっと見直して、日常的な作業をいくつか「やり残しておく」といいだろう。アイデアの温めが必要な時にそれらを行うのだ。すると仕事に戻った時、思わず「これだ!」と叫んでいるかもしれない。

 

HBR.ORG原文:How to Have a Eureka Moment  March 11, 2014

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デイビッド・バーカス(David Burkus)
オーラル・ロバーツ大学の助教授。経営学を担当。リーダーシップ、イノベーション、戦略のアイデアをシェアするLDRLB(リーダーラボ)の創設者。著書にThe Myths of Creativityがある。