本誌2014年11月号の特集「創造性vs.生産性」では、人の創造力を阻む「4つの恐れ」についてIDEOの創設者と共同経営者が詳述している。本記事では、4つの恐れを克服して小児患者を助けた、GEヘルスケアのMRI担当幹部の見事なエピソードを紹介する。


 あなたは何によって、創造力を刺激されるだろうか。GEヘルスケアのMRI(磁気共鳴断層撮影)装置担当幹部のダグ・ディーツにとって、それは幼い少女が泣いている姿だった。

 その日のことを、ディーツは鮮明に覚えている。病院を訪れ、自社の機械が稼働しているのを確認でき、最初は喜んでいた。MRIスキャナーの外見は美しく、動作にも問題はない。動かしている技師からの苦情もまったくなかった。そして部屋を去ろうとしたディーツは、1人の少女が怯えきって泣いているのを目にした。MRIスキャナーに入るのが怖くて、両親の手にしがみついている。少女が泣きやまないので、麻酔医が呼ばれた。

 病院では、おとなしく検査を受けてくれない子どもを鎮静剤で落ち着かせる処置が日常的に行われている――このことをディーツは初めて知り、衝撃を受けた。彼はこう回想する。「物体としての美しさ、新しい機能、自分たちの優れた能力――そんなことばかり考えていた私は、大局を見失っていたのです」。彼はその場で、小児患者のMRI体験を抜本的に改善しようと決意した。

 ディーツはまず、自分の考えをGEの上司に伝えた。すると、スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・インスティテュート・オブ・デザイン(通称「dスクール」)で、顧客中心のイノベーションを教える講座に参加するよう勧められた。我々はそこでディーツと出会う(本記事執筆者の1人、デイビッド・ケリーはdスクールの創設者)。ディーツは自身の体験に突き動かされ、少人数のボランティア・チームを組み、子どもたちにとってMRIはどんな体験なのかを総合的に考察するのを助けてもらった。メンバーには、子ども向け博物館の幼児教育専門家や、地元の小児科病院のチャイルド・ライフ・スペシャリスト(入院している子どもとその保護者の心のケアに従事する米国の医療専門職)などがいた。