ライフネット生命社長の岩瀬大輔氏の新刊『直感を信じる力』は、経営者がどう生まれるか以上に、どう学習しているかが印象的であった。直感を信じる力はいかにして生まれるか。
華麗な経歴だけで説明できない著者の魅力
開成高校から東京大学法学部に進み、在学中に司法試験に合格。留学先のハーバード・ビジネススクールでも優秀な成績で卒業し、日本人4人目のベイカー・スカラー賞を獲得。外資系コンサルティングファームや金融機関を経て、ベンチャー起業を創業し上場を果たす。岩瀬大輔さんのプロフィールはかようにケチをつけられないほど、いわゆるエリートです。
その岩瀬さんが、これまでにないほど自分をさらけ出したのが本書『直感を信じる力』です。雑誌の連載をまとめたものなので、本書に登場するテーマは多様です。小学校時代の思い出や新入社員として経験したこと、はたまたダボス会議で感じたことや就活生に贈るアドバイスから、趣味の文楽の魅力まで。
華麗な人脈を背景に登場人物も実に多彩で、数々の経営者やビジネスパーソンはもちろんのこと、アスリートや芸術家、有名シェフや医師まで。
これらの著者の経験から、具体的な人との接し方や仕事の仕方など、学ぶべき点が実に多いですが、本書の最大の魅力は、著者が経験を通して学ぶプロセスにあります。人は同じ経験をしても、違った学びをするものです。エレベーターに閉じ込められた経験から、ただただ恐怖の体験として記憶する人もいれば、パニック時に自分がどう反応するかを学習する人もいます。また閉ざされた空間で知らない人が時間を共有するとどうなるかを学ぶ人もいます。
その意味で、若き経営者・岩瀬大輔さんを作り上げてきたのは、もって生まれた頭の良さや才能では説明できず、置かれた環境で学んだ経験を、きちんと自分の言葉で説明できるまで消化されてこられた感受性ではないかと思います。