経営者の学ぶ力とは、自省する力

 興味深かったのが、ライフネット生命の創業パートナーである、現会長の出口治明さんが、岩瀬さんの最大の強みを「素直さ」と表現するくだりです。これに対し、岩瀬さんは「そう思ったことはない」と軽く反論し、「割と客観的に物事を見つめ、合理的な判断を下す方」と自己分析をします。

 本書全体を通して感じる岩瀬さんの最大の強みは、このように「自省する力」であるように思えます。すべてを吸収しようとする素直さを出口さんは評しているのかもしれません。新しい経験や知らない人に会った際、そこで揺れ動いた自分の感情をとことん自省して、自らの引き出しに取り込もうとする。ハーバード・ビジネススクールでの経験も、ダボス会議での経験も、だれもがこのような経験をしたら成長するのではなく、経験から感じたことを自省されてこられた著者だからこそ、次々と学びを深めてこられたのでしょう。

 その意味で本書は非常に著者のナイーブな一面が描かれています。多くの人が通り過ぎてしまいそうな小さな出来事にも著者は考えます。豊かな感受性は得てして人生を立ち止まらせることにもなりがちですが、著者の旺盛な好奇心がそれを許さず、どこまでも前向きなところがもう一つの魅力です。

 書名の「直感を信じる力」は当初、全編を通したテーマと思えませんでした。しかし読み終えて、著者が直感を信じることができるのは、それに伴う結果から自省する力があるからだと思えます。

 経営者はどのような学習から生まれるのか。その事例として本書は興味深いですが、それ以上に経営者としてさらに学習のスピードを加速している著者の自省する力に感銘を受けます。経営者を目指す人に読んでもらいたい一冊です。(編集長・岩佐文夫)