いくつか例を挙げよう。化学大手ダウ・ケミカルは、新しい製造施設の建設予定地を検討するたびに、コストとリスクを評価する必要がある。そこで自社の科学者、エンジニア、エコノミストによる専門チームを立ち上げ、自然保護団体のザ・ネイチャー・コンサーバンシーと協力関係を結んだ。両者は現在、地域社会が周囲の生態系から得ている価値、そして事業が自然環境に与えうる影響を算出する方法を開発中だ(英語記事)。この評価ツールが完成すれば、ダウのみならず他社もそのデータをビジネスの意思決定に利用できる。そしてリスクを低減し、後世の人々(および将来の自社)が必要とする天然資源を保全できるようになる。
ジョンソンコントロールズは約17万人の社員を擁し、建物のエネルギー使用と運営効率の最適化ソリューションを提供する企業だ。ニューヨーク市のエンパイア・ステート・ビルや、ムンバイのイノービット・モールといった古い施設の改修を通して、同社はカーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)の削減と自社の利益増加を同時に実現している。
マイクロソフトは2014年のスーパーボウルで、耳の聞こえない人に聴覚を与える新技術に関するテレビCMを放映した。同社にすれば、収益性の高い製品にすべてのR&D資源を注ぐこともできただろうが、社会的に意義のある製品への投資を選んだ。(この補聴技術を含むさまざまな生活改善のためのテクノロジーを、同社はEmpoweringというタイトルで1分の動画にまとめている。)
これらの企業が国家・世界レベルの課題を解決できる立場にあるのは、技術的な能力だけでなく巨大な規模を備えているからだ。非営利セクターは人々の境遇改善を着実に進めてはいるものの、個々の組織は大々的な変革を実現するほどの資源も拡張能力もないことが多い。単独の政府だけでは、自国以外の複数の地域に資源を投入しようにも、現地での影響力と権限を持っていない。国際社会は主要課題の克服にあたり、拘束力があり実行可能な協定をなかなか結べないでいる。企業が非営利セクターおよび政府と連携して中心的な役割を担ってこそ、社会問題への取り組みは成功に近づくのだ。
社会問題の解決について経営陣の決断が遅れている企業であっても、この方面への対応を余儀なくされている。消費者と従業員、そして投資家は、社会・経済・環境問題の解決策を進展させる企業をますます支持するようになっている。ソーシャルメディアでの露出と対話によって、企業は社会に与える影響について説明責任を迫られるようになった。
かつてオバマは、近年の歴代大統領のなかで「最もアンチビジネス(企業嫌い )」だと称された。その人物がこれほど重要な演説の場で、非営利団体や政府と協力する企業にたびたび言及し、その価値と機会を強調したのは実に興味深い。企業が社会の最も深刻な問題に目を向けてこそ、国と地球の在りようは改善に向かう――このことを、だれもが認める時が来たのだ。
HBR.ORG原文:Business Has Changed, and Even Washington Has Noticed February 3, 2014
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社会起業家、著述家、コンサルタント。著書にA Better World, Inc.: How Companies Profit by Solving Global Problems... While Governments Cannot(Palgrave Macmillan, 2014)がある。
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