企業が経済価値の追求と同時に社会的価値も実現させる。このCSVの考えに共感する人は多いが、企業という組織レベルではその実践が進まない。なぜ個人の思いが組織の思いに昇華しないのか。
CSVに対する2つの反応
最新号ではCSV経営を特集しました。CSV(Creating Shared Value)とは、戦略論の大家、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が2011年に発表した論文で提唱した概念で、事業を通して経済的な価値のみならず社会的な価値も同時に追求することで、競争優位が得られるという考え方です。従来のCSRは企業としての社会的責任として提唱されていましたが、CSVでは両者を両立させることが企業の優位性につながると主張している点が、異なります。
CSVの実践企業としては、ネスレ、GE、ユニリーバが有名ですが、これらについて日本企業のビジネスパーソンと話すと、大きく2つの反応に分かれます。ひとつは、これらグローバル企業の徹底的な実践に驚くというもので、「うちの会社ではそこまでできない」というものです。ユニリーバでは、2020年までに環境負荷を半減させると同時に、売上も倍増させるという計画を立てています。
もう1つの反応は、日本企業の原点は、まさにCSVではないかという意見です。松下幸之助氏が提唱した水道哲学の考えや、近江商人が大切にしていた「三方良し」の精神を掲げる企業が多いのも事実です。
確かに日本企業や日本人の中で経済活動を「利他」の精神に結びつける考えは浸透しています。だれしも仕事を通して社会の役に立ちたいという思いは、口に出すか出さないかは別として、確実に存在しているように思われます。就職活動をする学生の話を聞いていても「社会に貢献する仕事がしたい」と自然に出てきます。自分がやっていることが、社会のためになっている。これはプリミティブな欲求としてあるようで、CSVの考えは個人の働く動機と照らし合わせれば、なんら違和感がなく受け入れられ、逆にいうと目新しさもないでしょう。