日常生活を組み立てる3つの要素
創作活動をする日常の時間というテーマで浮き上がってくるのが、人との交流、手紙を書く時間、それと散歩の時間という3つの要素です。
創作活動とは、邪魔の入らない空間と時間が必要な一方で、他者との交流が刺激になります。多くの偉人もどの時間を自分の時間とし、またどの時間を他者との交流にするかを無意識に設計していたように思えます。画家のフランシス・ベーコンは、午前中5~6時間絵を描き、正午から深夜まで延々と友人たちとパブやレストランで呑んでいたそうです。
また当時の人の日常生活を読んでいると、どの人も「手紙を書く」ということに多くの時間を取られていたようで、一日の中でどの時間を手紙を書く時間に割くかが人それぞれの習慣として綴られています。電子メールもそうですが、手紙は文化として定着していた時代背景が伺えます。
また、散歩の習慣も頻繁に出てきます。自然豊かな地に居を構え、一日の始まりに湖畔を散歩する人、都市に住みランチ後に街を散策しカフェを巡る人、仕事を終えての散歩などそのスタイルはさまざまです。
なかにはユニークな習慣をもっていた人もいます。ドイツの詩人フリードリヒ・シラーは、仕事部屋の引き出しに腐ったリンゴを入れていて、その腐敗したにおいを刺激に執筆をつづけていた、など。
こうして161人の生活スタイルを知ると、「どの習慣が最も生産的か」に答えがないことが分かります。本書の最後を飾る161人目は、短編小説で有名なバーナード・マラマッド。規律を重んじるマラマッドは、毎朝7時半に起床。10分間運動してから朝食をとり、9時から執筆開始。昼食後には書いたものを見直し午後4時に帰宅。短い昼寝の後、6時15分から家族と夕食をとり、子どもが寝た後、3時間ほど読書をして12時に就寝するという生活を守りました。
そのマラマッドは、「いつかはだれもが、自分にとっていちばんいい方法がわかる。ほんとうに解明すべき謎は、自分のなかにある」と語っています。本書の締めくくりの言葉として、これ以上相応しいものはないでしょう。(編集長・岩佐文夫)