組織の透明性を監視テクノロジーで高める動きは、今後ますます加速するだろう。HBS助教授で組織行動学を専門とするイーサン・バーンスタインは、監視による過度の透明化に警鐘を鳴らし、そのリスクとして「従業員の創造性の減退」を指摘する。
ミズーリ州ファーガソンで発生した警官によるマイケル・ブラウンさん射殺事件以来、ホワイトハウスへの請願サイト「ウィー・ザ・ピープル」には15万4000人以上の署名が集まった。警官の職権乱用を抑止すべく「アメリカのすべての州、郡および市町村の警官に対するカメラ着用の義務化」を求めてのものだ。テクノロジーによって警察の透明性を促進しようという気運が全米で高まっているのを受けて、2014年9月にファーガソン警察署の警官には約50台のボディカメラが支給された。
カメラの導入によって警官の行動に対する偏った解釈が払拭できると、一般市民は期待しているだろう。現場で起きた出来事をそのまま見ることができれば、だれに非があったのか明確になるというわけだ。
しかし、ある調査は異なる結果を示している。フロリダ国際大学法学部教授のハワード・ワッサーマンの度重なる指摘によれば、ビデオ(特に一方向から撮影された映像)では、すべてを見通す中立的な観察はできないという(英語記事)。ボディカメラやタクシーの車載カメラなどが及ぼす最も重大な影響とは、過去を再現できることではなく、「現在の行動を変化させること」なのだ。つまり自分がカメラで監視されていると知っている人は、これまでとは違う行動を取るということだ。
これは明らかに、望ましいことである――カリフォルニア州リアルト市警察と研究者らが共同で行った現場実験では、そう判明した(英語報告書)。この調査では、勤務中に起きた事件で武力が行使された割合は、カメラなしの場合のほうがカメラ着用時の2倍に上っていた。事実、警官がカメラを着用している場合、常に一般市民のほうが先に警官の体に触れていた。かたや警官がカメラを着用していない場合、身体的接触があった事案全体の24%で、警官のほうが先に一般市民の体に触れていた。
似たような事例は他にもあり、興味深い事実が示されている。ワシントン大学のラマー・ピアース准教授らは、アメリカの約400軒のレストランで電子的に監視されている従業員の行動を調査した(英語論文)。テクノロジーを利用した監視システムの導入により、従業員による現金の窃盗は22%減少し、1週間当たりで約24ドル減少した(監視の効果は時間の経過につれて大きくなり、最初の月は7ドル/週の減少だったが、3カ月目には48ドル/週も減っていた)。しかし実際のところ、監視システムがより大きな影響を及ぼしたのは生産性と売上高であった。平均すると、総収入は7%(2975ドル/週)増え、飲料の売上げも10.5%(927ドル/週)増加した。加えて、チップも0.3%増えたのである。
現金を盗むのが以前より困難になった結果、従業員は「損失の穴埋めをすべく、売上げと顧客サービスを向上させること」を目指して努力するようになった、というのが研究者らの見解だ。この前向きな反応――すなわち、従業員のみならず雇用主にとってもメリットとなる「仕事ぶりの向上」は、監視による不正行為の防止よりも有意義な成果である。
したがって、従業員の行動を監視する本当のメリットはおそらく、悪い行動を抑止することではない。よい行動を発見してそれに報いることができる可能性だろう。