経営者のプロフィールのうち何に注目するか

 もう一つ、非常に興味深いのがランキングとともに表記されているCEOの略歴データです。もし日本でこのような経営者ランキングを発表し、経営者の略歴データを表示する場合、まず「出身大学名」が出てきそうです。そして「100人中、東大卒が何人」といった集計がされそうです。さらに「何年入社、年齢」といったあたりが表記されるでしょう。

 本誌で紹介される経営者の略歴データは5つで、それらは、①就任年、②創業者か否か、③内部昇格か否か、④MBAホルダーか否か、⑤工学学位の有無、です。

 この中で①の就任年と②の創業者か否かは、日本でもありえそうです。いまの業績の礎を築いたのが前任者かもしれず、いつ就任したかは興味深い項目です。そして創業者かどうかも気になりますが、日本ではこの指標によるランキングで創業社長の数は目立つほど多くはないのではと想像します。

 ③の内部昇格か否かは、日本の場合さらに馴染が薄い項目でしょう。ここ数年、サントリーの新浪さんや資生堂の魚谷さんが外部から社長に就任され、一躍「プロ経営者」という言葉が人口に膾炙するようになりましたが、これは内部昇格が一般的だという事実の裏返しです。

 ただし世界ランキングを集計してみると、100人中内部昇格者は80人でした。つまり転職組でトップになったのは20%。この数字が意外と低いと感じたのは私だけでしょうか。

 もっとも注目される項目は、④のMBAの有無と⑤工学学位の有無です。結果的に100人のCEOのうちMBAホルダーは29人、工学学位をもつ人は24人でした(両方もつ人は8人)。

 すぐれた経営者の約3割がMBAホルダーであるという事実。おそらく日本では1割に達しないのではないでしょうか。一方で、昨今はMBA教育の見直しが盛んに議論されています。机上の学習から経営のダイナミズムをどこまで学べるか。ケーススタディで徹底的な疑似体験をさせるハーバード・ビジネススクールも、2011年よりフィールドと呼ばれる体験型プログラムを導入して話題になりました。複雑さが増す企業環境では、過去のケースを用いた追体験型の学習では追いつかない。そのための新たな方法論をビジネススクールも模索しています。

 MBA教育の是非はともかく、世界的な企業と日本企業では経営人材の層の厚みには大きな差があることは事実のようです。

 工学学位について、今回HBRでも初めて表記した項目です。技術がこれだけビジネスに影響を与える時代となったいま、技術系人材の経営への関与はますます高まります。それ以上に注目されるのは工学系の教育を通して身につけた思考力です。ハーバード・ビジネススクールの学長ニティン・ノーリア氏は自身もインド工科大学で化学工学の学位を取得していますが、本誌で「工学を学ぶと現実的で実利的な思考が身につく」と語っています。

 複雑で変化の激しい今日では柔軟な思考で、目標達成する姿勢が求められます。そこでは教科書通りに実践するスキルよりも、現実的な対応ができる工学的思考が重視されます。マネジメントに正解がない以上、理論やフレームワークを正しく実践する力より、状況によって迅速に応用させていくスキルこそ求められていると言えます。(編集長・岩佐文夫)