日本企業のグローバル化を阻む根本的な課題
ここでさらに踏み込んで、統合段階で遭遇する典型的な二つの課題を論じることで、日本企業の体質問題を探ってみよう。まず、PMIで最も困難な課題が企業文化の統合問題。企業文化というと何とも掴みどころのないもののように感じるが、実は次の3つの要素に集約することができる。一つは経営理念、もしくはその会社の社員が最も大切だとしている商売上の価値観と言っても良い。例えば、それは業績へのこだわりであったり、あるいは顧客満足を最重視することであったりする。二つ目は、意思決定のルール。現場に大きく権限移譲がされているのか、そうではなくて階層型で下から手続きを踏んで決めていくのか。三つ目が人事制度であり、運用である。何で人を評価し、どのような人物を昇進させていくのか。会社間でこれらの三つの要素が異なるのは常であり、その結果として両社の企業文化が違うという認識になる。まして、日本企業と海外企業とでは、企業文化の大いなる相違に戸惑うことになる。
そこで両社組織を完全統合するというのであれば上記の三要素を合わせていくことになる。それはこれまでの会社の在り方を根底から変えることになり、実際には現実的でも得策でもないという判断に至る。その結果、せいぜい両社間で企業理念を共有するくらいで文化的統合は収まり、買収元である日本側組織に固有の文化は温存されることになる。かくして、両社が一体となったグローバル企業への脱皮は掛け声に終わることになる。
もう一つ、海外企業買収のブーメラン効果についても述べておこう。晴れて海外企業の買収が実現できたとして、いざ両社で経営情報の開示を行い、シナジーや業績向上に向けた改革プランの議論を開始する。すると、最も業績が冴えず改革が必要なのは、日本の事業ではないか、となることが実際は多いのだ。だが、それらの指摘に対して日本側の経営陣も同様な問題意識を持っていたとしても、とりあえず日本の事業は横に置いて海外事業の改革について議論すれば良いと押し戻してしまう。そこで買収された側の経営陣は鼻白むことになるのだ。
これも、本来であれば海外企業買収を機に両社で様々な角度からベンチマークを進めて、両社一体となって聖域なき経営改革に取り組むべきなのだが、前述の企業文化論と同様に理想はそうであっても現実には中々そうはならない。結果として買収はしても統合はせず、ダブルスタンダードの企業連合体として微妙な経営がされていくことになる。それは理屈の上で買収の価値を半減するということだけでなく、日本側経営陣と買収側との間で真の信頼関係の構築を阻むという深刻な副作用を生じるのである。