ここに至って、我々は日本企業のグローバル化を阻む根本的な課題を思い知ることになる。文化的統合は回避し、事業と組織は二分法的なダブルスタンダードで運営する。そのままでは、いくら成長のために海外企業のM&Aに打って出たとしても、殆ど勝算のない行為に見える。本文前半で述べてきたM&Aの各段階で勘所を押さえることはもちろん大事なことではあるが、それだけでは不十分だ。では、最終的に買収の成果を生み出すためには何が必要なのか。ひとつは、日産‐ルノー連合を率いるカルロス・ゴーン氏、攻めの経営を貫く日本電産の永守重信氏、あるいはスプリントの大型買収に奮闘にしている孫正義氏のような、強烈な個人の求心力の下で超越的な統合を実現することはできるかもしれない。

 もう一つは、組織文化の一体化や自社組織のグローバル化などにこだわらない、統合なしのアライアンス型のM&Aという現実解もあり得る、と言えばあり得る。これはダブルスタンダードのまま、両社の協業によって実利を取っていくということである。例えば、東芝-ウエスチングハウスやJT-RJRIはこのケースに相当すると思われるが、その場合でも成功するためには明確な前提条件がある。それは買収先企業にはない明瞭な技術上の優位性やオペレーションの強み(格段に優れた生産技術、世界的に競争力ある商品、など)があり、買収先にそれらを提供することで価値を生み出せる目論見と組織力があることである。これは財務的な価値創造と言う観点からも重要である上に、被買収側企業に対する求心力の源泉となるのである。

 強いリーダーと圧倒的に優れた何か。海外企業の買収を実現する上で、両方揃っていることが一番良い。逆にどちらも欠いたまま、余剰資金を生かして成長を買いに行くような安易な海外企業の買収は自殺行為にも近いことを認識するべきなのだ。

 さて、これまで論じてきたように21世紀のグローバル経済は、新たに巨大な成長機会を企業にもたらしている。しかし、その成長を取り込むためには、企業は事業戦略、組織体制、ガバナンス、人材育成など、あらゆる観点からグローバル化に対応した経営力の革新を図ることが必要であることが伝わったであろうか。グローバル競争とは、まさしく国境を越えた経営力の競争なのであるから。