付加サービスの撤廃によってチェックアウト時の精算が不要となり、鍵も暗証番号キーにすることで、チェックアウト業務自体も必要なくなった。そのため、宿泊客は出発時に待たされることがなくなり、ギリギリまで寝られる。また、フロント人員の削減にもつながった。こうしたトータルのコストダウンにより、宿泊費は廉価に設定された。

 それでは既存のホテルは、なぜ同質化できないのだろうか。まずは単価が下がることは避けたい。またホテルでは、従業員教育に多くの投資をしてきたため、簡単に人員を減らせない。さらに、外線電話には手数料を上乗せでき、冷蔵庫の飲料は隠れた収益源であった。これらを簡単に手放す訳にはいかなかった。ただ安いホテルなら他にも多数あるが、安眠を保証しながらも(安眠できなければ、返金する仕組みがある)、不要なコストは削減し、リ-ズナブルな料金に抑えた同社は、CS調査でも常に上位にいる。

不協和戦略の事例から学べるもの

 不協和戦略は、「資源を持っていない」ことを強みとして、リーダーと戦わない戦略である。競争しない戦略のためには、リーダー企業の「強み」として諦めていたものを一転「弱み」にすることを考え、逆に「弱み」として諦めていた自社の資源を「強み」に転化させていく逆転の発想が求められる。不協和戦略は、業界が成熟し、シェアが固定化してしまったような業界でより有効である。特にリーダー企業の「強み」は絶対的と諦めてしまっている業界では、いくつもの「強みが弱みに転化する要因」を見つけることができる。例えば本稿で紹介した日本生命の強みは、かつては営業職員数にあると考えられてきたが、ライフネット生命は、まずこのチャネルを、ネット販売によって「負債化」することを考えた。

 またリーダー企業のフルライン政策(あらゆる種類の保険、特約)が強みであった所、ライフネット生命はわかりにくい特約を廃止し、定期付終身保険だけのわかりやすい保険に特化した。保険がわかりにくいために、営業職員による人的販売が必要であった所を、保険をシンプルにしたことによって、消費者がネットでも選べるようにしたのである。さらにライフネット生命は、保険料の内訳を公開し、保険を「見える化」した。これも保険料の比較サイトが登場したり、保険に関する情報が豊富になるに連れ、消費者が“賢くなり”、保険を選択する基準を見せてあげた事になり、日本生命が同質化しにくいポイントであった。

 顧客が賢くない時代は、企業(供給者)の持つ情報・ノウハウの方が多く、「情報の非対称性」(複数の当事者間で、各々が持つ情報量に格差がある状態)が存在した。その時代には、利益は企業側に多く配分されてきた。例えば、メインフレームの全盛期には、コンピューター・メーカーは高い利益率を上げていたが、部品がモジュール化され、詳しい消費者であれば、自分でパソコンも組み立てられるような時代になると、利益率は下がってきた。すなわち、「情報の非対称性」が大きい場合には、顧客に対する企業の優位性は崩れにくく、それはリーダー企業の安定に結びつくが、非対称性を小さくしていけば、企業優位の構造は崩れていく。

 このように考えると、不協和戦略を立てるにあたっては、次の2点が重要である。

 第1に、リーダー企業の弱みを突くのではなく、リーダーが強みとしていた競争の源泉を探し、それを1つずつ負債化していくことが必要である。第2に、顧客を教育して賢くさせ、「情報の非対称性」を下げ、同時にバリューチェーンをアンバンドリング(解体)していくことが必要である。これによって、顧客が商品・サービスを選択する基準を明確にし、また顧客が必要なものだけを購入できるような仕組みを作っていくことができる。

 

【参考文献】

・オールウェイズ研究会編、青井倫一・矢作恒雄・和田充夫・嶋口充輝(1989)『リーダー企業の興亡』ダイヤモンド社

・Ghemawat P. (1991)Commitment : The Dynamic of Strategy, Free Press

・Yoffie D. B. and M. Kwak(2001)Judo Strategy : Turning Your Competitors’Strength to Your Advantage, Harvard Business School Press(藤井正嗣監訳(2004)『柔道ストラテジー』日本放送出版協会)