不協和戦略の4類型

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山田英夫(やまだ・ひでお)
早稲田大学ビジネススクール(大学院商学研究科)教授。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、三菱総合研究所入社。主に大企業の新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早稲田大学に移籍。現在に至る。2003年学術博士(早大)。専門は競争戦略、ビジネスモデル。アステラス製薬(株)(2001年~2012年)、NEC(2011年~)社外監査役を兼務。

①企業資産の負債化

 企業資産の負債化は、組み替えの難しい企業資産(ヒト、モノ、カネ、情報)、および企業グループが保有する資産(系列店、代理店、営業職員等)が、競争上価値を持たなくなるような製品・サービスやマネジメント・システムを開発することによって、リーダーが同質化できない状況に追い込む戦略である。

 この戦略を採っている企業にライフネット生命がある。過去の日本の生保は、営業職員による人的販売が中心であった。保険のニーズを感じていない消費者にニーズを喚起し、簡単には理解できない保険の仕組みを説明するためには、人的プッシュ戦略が有効であった。そこに近年、インターネット専業のライフネット生命が参入してきた。同社は次の3つを特長としている。

 第1は、ネット専業で営業職員を持たないことから、伝統的生保企業に比べて人件費分だけ保険料が安くできる。第2は、「保険をわかりやすく」というポリシーから、特約をすべて廃止した。契約者にとって、特に特約はわかりにくかったが、生保会社にとって特約は収益源であった。しかし同社は、特約を廃止して保険をわかりやすくした。第3は、生保の手数料の「付加保険料」と「原価の純保険料」の比率を公開した。従来生保会社では、大量の営業職員を抱えコストをかけた営業体制を採っていたため、コストの公開はタブーであった。

 こうしたライフネット生命の戦略に対して、営業職員を中心とする日本生命などの伝統的企業は以下のような理由で、同質化を仕掛けられない。第1に、人的販売からネット販売に追随すると、これまで企業資産であった営業職員が不要になってしまうからである。大量の営業職員を廃止してネットへという戦略は、伝統的生保は採りにくい。第2に、収益源である特約をみすみす廃止することはありえない。保険商品は複雑である方が、営業職員による人的販売の意義も高かったのである。第3に、営業職員のコストの内訳を公開すると、営業職員のコストが高いことが分かってしまうため、とても追随できなかった。ライフネット生命は、このような大手が同質化しにくい戦略によって、ネット生保での基盤を築いたのである。