技術は揃った。これからは想像と妄想の競争

 IoTに関しては、さまざまな事例が紹介されますが、面白いのはテニスラケットのバボラ社の取り組みです。イアン・ジョコビッチ選手も採用するバボラのラケットですが、ICチップが内蔵されていて、すべてのストロークのデータが記録され分析することができます。成功したショットと失敗したショットでは角度が違ったのか、ストロークの軌道が違ったのか、その原因がデータとして把握できるのです。こうなるとテニスの練習方法が変わるでしょう。感覚に頼るよりもはるかに短時間で修正ポイントが見つかるはずですし、自らの強みや相手の分析が容易になります。

 モノとモノがつながるとどのようなことが可能になるか。想像を膨らますときりがありません。私の睡眠データと寝室のエアコンがつながることで、深い睡眠がとれる最適な空調管理を自動的にコントロールしてくれるかもしれません。私の使用するペンにICチップがついて、ペンの動くデータがクラウドに集まれば、いつどこでどんな紙に書いてもテキストデータを一か所に集積できます。そうなると紙を持参しなくなるでしょう。これらは想像を超えて妄想の世界かもしれません。

 これまで想像できなかったことが可能になる。テクノロジーの発展は文系の人間から見ると凄まじい発展を遂げています。要素技術が揃ったいま、これからは、用途の開発、すなわち、いかに想像できるか、いかに妄想できるかがIoTをビジネスで成功させるカギとなるでしょう。

 想像や妄想が求められるとなると、マーケターやビジネス開発の人間の出番です。どれだけ優れた「こんなことができればいい」を考えることができるかが競争優位につながります。

 技術開発でIoTがここまで関心を寄せるようになったのは、技術者たちの貢献です。しかし、いまこそビジネスサイドの人がIoTの世界に入るべき段階が来たのではないでしょうか。技術を生かすも殺すも人次第。IoTを人々を監視するツールにするのか、人々の考える力を退化させるツールにするのか。それとも、人々の暮らしをさらに豊かにするのか、人の思考領域を解放するツールにするのか。これから5年、10年は、魅力的な使い方の「提案」競争になるはずです。(編集長・岩佐文夫)