ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第2回は、組織心理学の第一人者であるエドガー・H・シャイン氏の『問いかける技術』を取り上げる。

 

話す力、聞く力よりも大切なもの

 コミュニケーションにおいて、話す力や聞く力はしばしば重視されている。一方で、発言を控えて、「問いかける力」を高めようとする人は、少ないのではないだろうか。実は人間関係を築くのも、問題を解決するのも、物事を前進させるのも、すべては適切な質問があってこそ上手くいくという。

 今回紹介する『問いかける技術』はマサチューセッツ工科大学(MIT)の名誉教授であるエドガー・H・シャイン氏が、社会心理学と組織心理学の分野での50年にわたる研究を凝縮した1冊である。彼は、前著『人を助けるとはどういうことか』において、協力関係の原理・原則について記した。今回はその研究課程で発見した、「問いかける」ことが組織や人間関係にもたらす影響ついて、豊富な事例と平易な言葉で述べている。

 では、問いかける技術とは何であろうか。これは、ただ単に丁寧に質問すれば良いわけではない。自分では質問しているつもりでも、結局は自分が言いたいことを、質問の形式に置き換えただけのことはないだろうか。あるいは自分が正しいことを確かめるために、相手に質問していることは無いだろうか。議論をふっかけたり、相手を診断したりするような質問も、あまりよく考えずにうっかりやってしまうが、これらももちろん「問いかけ」には当たらない。

 本書では問いかけのことを「謙虚に問いかける」と記している。相手の警戒心を解くことができる手法であり、自分では答えが見いだせないことについて質問する技術であり、その人のことを理解したいという純粋な気持ちを持って関係を築いていくための流儀であるという。