伊能 私の知人に中高一貫校の先生がいますが、話を聞くだけでもう大変です。授業準備から生徒指導、クラスのマネジメント、親への対応、学校説明会、部活の顧問……残業も多く、いわば「垂直統合」とも言えるこの教育モデルに限界がきていることがよくわかります。

外村 修学旅行の引率までありますからね(笑)。いま、教育学部にはいい人材が集まりにくくなっていますから、今後は現場で人材不足が顕著になるでしょう。となれば、授業のあり方も変わっていくしかありません。とくに高等教育においては、講義に長けた先生の話をオンラインで聞いて、わからないところは近くにいる先生が教室で親身になって教える。このほうが、それぞれの先生の最もよいところを引き出せるのではないでしょうか。

先生には「コーチ役」が期待される

伊能 美和子(いよく・みわこ)
gacco長
東京都生まれ。1987年、国際基督教大学教養学部卒業後、日本電信電話(NTT)入社。1999年のNTT再編後、NTTコミュニケーションズ法人営業担当。2004年、社内公募制度を利用して、NTT持ち株会社研究企画部門の「プロデューサ」として、デジタルサイネージの市場創生に携わる。2012年よりNTTドコモ ライフサポートビジネス推進部 教育事業推進担当部長。JMOOCへの参画、料理教室最大手のABCクッキングスタジオとの資本提携、知育サービス「dキッズ」の立ち上げに関わる。

伊能 そうですね、単に教科を教える「ティーチング」と、個々にあった指導を行う「コーチング」とは分けて考えるべきです。この二つに必要な能力は異なるものなのに、現場にはそれが同時に求められ過ぎている気がします。たとえ講義が苦手でも、指導するのが上手ならば、それは子どもにとっては価値がある。ゴルフでいえば、レッスンプロのような存在です。必ずしもプロゴルファーに教われば成績が伸びるというわけではありません。

外村 タブレット端末の導入など、現在、教育現場にはIT化の波が押し寄せていますが、いまのままでは先生の負担が増えるだけのケースもあるのではと心配しています。先生はまず、「教壇に立って教えるものだ」という固定概念を取り払って、現在の環境において「生徒にとって質の高い学びは何か」をゼロベースで考え直してもよいのではないでしょうか。そうすれば、先生自身がより楽しく、かつ物理的負担を減らして職責を全うできるかもしれません。生徒だけでなく先生も手助けすることこそ、テクノロジーが教育に果たすべき役割とも思います。

伊能 その点でいえば、日本の教育現場にタブレット端末を導入することが目的になっていないかと危惧しています。gaccoを運営している我々NTTドコモとしても、単にタブレットを売って回線契約を得たいわけではありません。ITの力で日本の知力の底上げをしたいと考えて事業を行っています。もっと言えば、学校の中に閉じていた知識を社会に広め、先生の負担を減らすことにつなげていきたいと考えています。いい先生に出会えなかったことで子どもたちが失った機会を、社会に提供できるようになればいいですね。

外村 日本人は、お手本を見て学ぶ能力が高い。いろいろな使い方やサービスの組み合わせで教育現場がよりよく変わっていくといいですね。

伊能 ええ、本日はありがとうございました。

外村 こちらこそ、ありがとうございました。 

 

【最新刊のご案内】

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』別冊(2015年5月号)

│特集│

人材の未来、教育の未来

│巻頭提言│

とがった一人の才能に日本は負け続けている
ビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長
ビジネス・ブレークスルー大学 学長
大前研一

第1部│これからの社会、これからの働き方

破壊的イノベーションで社会改革を実現する
ハーバード・ビジネス・スクール 教授
クレイトン M. クリステンセン ほか


変わる働き方、変わるマネジメント
ロンドン・ビジネス・スクール 教授
リンダ・グラットン


スーパーテンプ:ハイクラス人材の新たな働き方
ビジネス・タレント・グループ CEO
ジョディ・グリーンストーン・ミラー ほか


第2部│経営トップが示す、生き残りの指針

日本人の「稼ぐ力」の基盤が変わった
経営共創基盤(IGPI) 代表取締役CEO
冨山和彦


世のため人のためを実現するには儲けることが不可欠である
カルビー 代表取締役会長兼CEO
松本 晃

多様化が進むからこそ「国語力」が求められる
マネックス証券 代表取締役社長CEO
松本 大

人間を相手にする以上、教養は不可欠である
ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO
出口治明


グローバルで戦うためのIQと現場の痛みをわかるEQを併せ持つ
日本マイクロソフト 代表執行役 社長
樋口泰行


いまこそ、日本が変わる絶好の時
三菱商事 取締役会長
小島順彦

第3部│教育は何をすべきか

情報編集力を鍛え、成熟社会を生き抜く
教育改革実践家/杉並区立和田中学校・元校長
藤原和博


基礎教育を効率化し、スタディ・ライフ・バランスを取り戻す
リクルート マーケティング パートナーズ 執行役員
山口文洋

IT化で広がる教育格差──日本は世界に追いつけるか
Quipper CEO
渡辺雅之

コラム

対立を避けるだけの「いい人」はチームにいる意味がない
ナイツブリッジ・ヒューマン・キャピタル・ソリューションズ
バイス・プレジデント
リアン・デイビー

オンライン教育の真の革命は、MOOCsというよりも、教育のモジュール化である
クレイトン・クリステンセン破壊的イノベーション研究所
シニア・リサーチフェロー
ミッシェル・ワイス


意見交換や対話が必要でないなら、講義は無用
カーンアカデミー 創設者
サルマン・カーン

逆境を乗り超え、集中する力を子どもたちに身につけてほしい
女優、ダンサー
ゴールディ・ホーン

「ゲーマー気質」の持ち主は理想の次世代人材
南カリフォルニア大学 客員教授
ジョン・シーリー・ブラウン ほか


ご購入はこちら
Amazon.co.jp e-hon 楽天ブックス