市場テストの結果が、有望かどうかいまひとつ明確ではない――新規事業に付きもののこうした不確実性に、どう対処すべきか。イノベーションの意思決定の精度を高める方法を、アンソニーが示す。

 

 自社の新規成長事業を支援する幹部が、プロジェクト検討会議の終わりにこう尋ねた。「で、どうするの?」

 このプロジェクトは非常に有望視されていた。新興国で人口が多い都市部にある集合住宅の住民向けに、新しい医療サービスを提供しようという計画だ。サービスの説明パンフレットを見せられた住民のうち、かなりの人数が関心を示していた。だが、彼らは本当にサービスに申し込むだろうか。それを見極めようと、この会社はほぼ同規模の3つの集合住宅を対象として、90日間の市場テストの実施を決めた。

 プロジェクトの担当チームはテスト前に、詳細な財務分析モデルをつくっていた。それによると、集合住宅の住民たちの3%がこのサービスに申し込むならば、利益が出る。市場テストでは、1カ月の無料体験期間を設けてサービスを利用してもらい、その後に1年間の有料契約を検討してもらうことにした。担当チームはこう予測を立てた。3つの集合住宅でそれぞれ30%が無料体験サービスに申し込み、そのうち10%が有料の1年契約をするだろう――。

 こうして市場テストを実施。実験の常として、新サービスのポジショニングの難しさや、実行面の複雑な事情について多くを学んだ。いくらか軌道修正すればうまく実行できそうだという自信を得て、3カ月の市場テストを終えた。

 そしてテストのデータを検証したところ、おおよそ以下のような結果であった。

 上記をまとめると、

●無料体験に申し込んだ顧客の割合は、予想を下回った(ただし集合住宅2を除く)。
●無料体験を経て有料の1年契約に申し込んだ割合は、予想をわずかに上回った(集合住宅3では著しく高かった)。
●だが市場獲得率の平均は、採算分岐点である3%を下回ってしまった。

 この結果から何が言えるだろうか。最終的に目標(3%)に達しなかったのは事実だ。この場合、プロジェクトを中止すべきか、あるいは何らかの大きな変更が必要だと考えられる。一方で、目標とする人数には「わずか5人だけ足りなかった」とも言える。したがって、市場テストをもう1度やってみる必要があるかもしれない。あるいはこの結果は、プロジェクトをただちに進めるべきだとさえ示唆しているかもしれない。集合住宅2では無料体験への多くの申し込みがあった。そして集合住宅3では1年契約の加入率が高かった。この2つの数字を合わせて考慮すれば、有望なのではないか――。