「自分がアーティストになったつもりで描いてください」

 さて今度はいよいよ、3名が自分の絵を描く番です。テーマは、「働くうえで大切にしていること」。まずは、ワークシートにテーマを言葉で表現します。その次は、色で例えると何色なのかをカラーチャートにマッピングします。「『情熱』という言葉を考えたとしても、赤を選ばなくてもいい」とKuniさんは言います。その言葉はどんな色なのか、自由に発想することが大切だからです。最後は、言葉と色から思い浮かぶ世界観を表現します。自然の光景や、物体、形などなんでもありです。それを手がかりに描き始めます。

 画材はパステル。脂分の入っていないクレヨンのようなもので、さわるとしっとりとした粉の感触があります。そのパステルで線を描き、色を塗り、指でこすってぼかす。それが今回の描き方です。定規などの道具は一切使いません。たまに紙の端を使って直線を描こうとする人もいるそうですが、それはNG。Kuniさんがそう言うと、本間さんが「それ、やろうかと思っていました」と笑って白状しました。PCなどのツールが発達し、線を自分で描く経験もほとんどなくなりました。たとえ線が曲がっても、それが自分の絵。今回はそういう考えのもとに、すべて手で描いていきます。

 いざ描こうという3名に、Kuniさんからのメッセージが。「自分がアーティストになったつもりで描いてください。ここは会議室ではなく、今日だけはアトリエなんです」。3名からは、“アーティスト”という普段の自分とかけ離れた言葉に、思わず笑いがこぼれます。でもこの言葉は真実で、絵を描くときは全員がアーティストなのです。

 ベースとなる紙は12色。白い紙はありません。ここで絵は白いキャンパスに描くものだ、という固定概念がひっくり返されます。地の色をどう活かして描いていくか考えることで、自分の思いもよらなかった表現につながっていきます。ワークシートを描き終わった人から、紙を選びに行きます。宮坂さんは、黄緑色の紙を迷わず手に取りました。もう、絵のイメージが固まっているのでしょうか。ワークシートには、「仲間、幸福、自然」と書いてあり、カラーチャートは5つの色にマークがしてあります。

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左から加納さん、宮坂さん、本間さん

 しかし、絵を描きだすまでにしばし時間がありました。足を細く揺らして考えています。しばらく経った後、青のパステルを手に取り、すっと線を引きました。そこからは、紙に顔を近づけ、夢中で描いていきます。指や手の端にさまざまなパステルの色がつき、手自体がひとつのアート作品のようになっています。加納さんも、本間さんも、黙って絵に集中しています。ときどき、絵を全体から見てみたり、紙を回してみたりと、40分間をじっくり創作にあてる3名。まさに、画家が集まるアトリエのような雰囲気がただよっています。