元アスリートが発した意外な言葉

 森川さんの言葉は、まさに正論。本来は、企業は社員にプロフェッショナルとして当然のことを、当然のこととして要求するだけでよいのです。

 先日、元スポーツ選手で引退後、企業に勤めてビジネスパーソンとして働いている人と話す機会がありました。この人はプロのアスリートとして報酬をもらうという世界で生きてきました。そして、第二の人生として我々が言うところの「社会人」として現在活躍しています。スポーツの世界からビジネスの世界へ。最初は戸惑うことも多かったことでしょう。そこで、彼に「ビジネスの世界に入って一番驚いたことは何ですか」と聞きました。

 彼は少し考えた後、遠慮がちにこう言いました。「人によってモチベーションの差が大きいことです」。この答えには、意表を突かれました。
 スポーツの世界は結果に応じて報酬が決まります。怪我であろうと、ライバルの出現であろうと、結果が出なければ生き残ることができない世界です。その中でモチベーションの差があったとしてもごくわずか。アスリートとして日々自分の能力を高めようと努力するのは、当然のことで、言葉にする必要さえないでしょう。それがプロの世界です。

 ビジネスも報酬をもらっているプロの世界。その意味で、スポーツの世界と何ら変わらないはずです。なのに、「モチベーション」がこれだけ大きくなるのは、ビジネスの世界はプロの世界として未熟と言わざるを得ません。森川さんも、同じインタビューの中で「社会全体が幼稚化している」と話されています。

 我々は「プロフェッショナル」という言葉を安易に使いすぎてきたかもしれません。他の世界のプロフェッショナルから学ぶことの大切さを改めて痛感しました。(編集長・岩佐文夫)