他者への偏見はしばしば、明示的な態度に表れなくても無意識下に潜在するものだ。この意図せぬ偏見が、マインドフルネス(目の前の瞬間に意識を集中させること)によって軽減されることが実験で示された。
マインドフルネスについて、研究者たちの関心は尽きないようだ。マインドフルネスは創造性や集中力の高まり、ストレスの軽減、作業記憶(ワーキングメモリー:複雑な認知作業を遂行するために、短期的に情報を記憶するプロセス)の向上、他者への思いやりの深まりなどと関連することが、さまざまな研究で明らかになっている。そして新しい研究では、無意識下の偏見を克服するうえでもマインドフルネスが有効なことがわかってきた。
『ソーシャルサイコロジー・アンド・パーソナリティサイエンス』に掲載された論文によれば、人が潜在的に持っている偏見と、それに起因するネガティブな振る舞いは、マインドフルネス瞑想によって抑制できるという(英語論文)。
マインドフルネスの定義はさまざまだが、煎じ詰めれば「その瞬間に起きていることに意識を集中させる」ことであり、自動操縦(無意識的な行動)とは対照的な状態を指す。「今、この時」に集中することで思慮深く行動でき、過去に形成されてきた連想に基づく無意識的な判断に流されにくくなる。
これまでの研究でも、マインドフルネスによって無意識的な情報処理が減り、偏見に基づく振る舞いが少なくなることがわかっている。しかしセントラル・ミシガン大学のアダム・ルーキーとブライアン・ギブソンはそれに加えて、マインドフルネスが潜在的な偏見も抑制することを発見した。人の潜在的態度(implicit attitudes)は無意識下の連想に基づいており、それが振る舞いに及ぼす影響は意外なほど大きい。たとえ平等主義を標榜し差別に否定的であっても、実際の他者への評価や扱いは往々にして、無意識下の情報処理に影響を受けてしまうのだ。
ルーキーとギブソンによれば、マインドフルネスのエクササイズに10分間耳を傾けたグループは、そうしなかったグループと比べ、人種と年齢に関する潜在的連想テスト(IAT)で偏見の度合いが少なかったという。偏見そのものについては意識していなかったにもかかわらずである。
実験では、研究の意図を知らされていない72人の白人の大学生を被験者とした。実験群には、自分の心拍と呼吸を意識させるような音声を聞いてもらった。それは感覚や思考を「抑制や抵抗、判断をすることなく」受け入れる(マインドフルになる)ように促すものだった。対照群には、歴史に関する音声に10分間耳を傾けてもらった。その後、両グループに人種と年齢に関する潜在的連想テストを実施。黒人と白人の顔の写真を見せ、ポジティブな言葉とネガティブな言葉のいずれかに結びつけてもらい、その反応時間を調べた。続いて高齢者と若者の顔の写真で同様のことを行った。