経営者とマーケティングとの関わり方は様々であり、これが正しいと言い切れる正解は存在しない。しかし、どのようなタイプの経営者、企業であっても、押さえておくべき定石はある。最終回ではその6つについて論じていく。
マーケティングの6つの定石

表1:「経営的マーケティング」の役割
経営者としてマーケティングにどう関わるかについて、2回にわたり「マーケティングCEOスペクトラム」によって見てきた。経営者によってマーケティングとの関わり方は様々であり、教科書的な一般解はないようである。とはいえ経営者としてこれだけはある程度やっておいたほうがよいという最低限の関与の仕方はありそうである。いわば、経営的マーケティングの「定石」である。それをまとめたのが、表1である。主な項目に関して、略述する。
定石1:自社のマーケティングの定義と役割を定める

今村 英明(いまむら・ひであき)
そもそもマーケティングの定義自体が不明確な会社が多いというのが、日本の大企業の全般的印象である。多くの場合は、マーケティング自体が存在していないか、あったとしても営業と一緒くたに扱われ、その役割の違いが不分明である。またマーケティングの機能・役割について、部署・地域・担当者などの間でバラバラの理解になっていることも多い。マーケティングのフレームワークや使用言語も統一されている会社の方が少ない。したがって、社内で共通の議論ができる土俵がなかったり、誤解や間違いを生むもとになったりもしている。さらにマーケティングのトレーニングや組織学習が進まず、マインドもスキルも向上しない結果にもなっている。
もし経営者が自社のマーケティングの組織能力を高めたいのであれば、自社におけるマーケティングの定義と役割を明確に定めると同時に、マーケティングに関する全社共通の言語・フレームワークを創って、社内に広く定着させることが必要であろう。
例えば、トヨタ自動車は、経営層のリーダーシップで、トヨタの標準的な仕事のやり方を定義した“The TOYOYA WAY”に基づき、販売・マーケティングでの経験、ノウハウ、インサイトを集大成したものを”The TOYOTA WAY in Sales & Marketing“「トヨタ販売方式」という形でまとめている。これが、全世界のトヨタの販売・マーケティング部署共通の標準的教科書になっていると言われる。