篠田:なるほど。要素そのものは普通にビジネスをやっていると思いつくことなんだけど、こうして描いていただくとそれぞれがつながっていることがわかります。そのつながりを意識しておくことが大事なんですね。

(しのだ・まきこ)
東京糸井重里事務所取締役CFO
慶應義塾大学経済学部卒、1991年日本長期信用銀行に入行。1999年、米ペンシルべニア大ウォートン校でMBAを、ジョンズ・ホプキンス大で国際関係論修士を取得。マッキンゼー、ノバルティス・ファーマ、ネスレを経て、2008年10月、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する糸井事務所に入社、2009年1月より現職。2012年、糸井事務所がポーター賞(一橋大学)を受賞する原動力となった。
枝廣:それが一つと、もう一つは先ほど言われた、どこまで増え続けるかということも、システム思考を知ることで判断できるようになります。
既存顧客が口コミループで一定の新規顧客を連れてくるとすると、既存顧客が増えれば増えるほど(そうでないときに比べて)新規顧客も増えることになります。一方でこうした手帳を使っている潜在顧客がいますよね。新規顧客が増えると潜在顧客はそのぶん減ってしまうのです。そして潜在顧客が減れば減るほど、(そうでないときに比べて)新規顧客も減ることになる。だから、企業は既存顧客を増やすために成長のループをグルグル回そうと投資するんですけど、やがて潜在顧客が減って成長の限界が出てきます。それを打開するには新たな潜在顧客をつくり出さなければなりません。そこで、英語版、中国語版という話になっていくわけです。これが成長の限界というループです。
たとえばレストランで口コミが広がってお客さんが増えると、どんな制約が起こると思いますか?
篠田:えーっと、待ち時間が増えるのでは……。
枝廣:そうです。何年か前に新宿に新しいドーナツ屋さんができたとき、通るたびに、列がどんどん長くなっていくのを見ていました。おっ、成長のループが回ってるなって。
篠田:枝廣さんは世の中をいつもそうやって見ているんですか(笑)。
枝廣:ええ(笑)。あのときは口コミやメディアの効果で強力なループが回ってあっという間に行列が伸びたんですが、あるところで伸びがぴたりと止まりました。それは待ち時間です。ドーナツを買うのに2時間待ち。そこまでいくと皆、待ち時間とのバランスを考えますよね。またレストランの場合は、お客さんが多くなるとサービスが低下するということもあります。成長がうまくいけば何が制約になるのかを考えて手を打っておかないと早く成長の限界がきてしまうのです。
篠田:なるほど。でも、やっているほうはマイナスのループは考えたくないという心理的バリアがありますよね。おっしゃっていることはそのとおりなのに、さっき「潜在顧客が減りますよね」って言われたとき、えっ減っちゃうの? って一瞬ドキっとしました。ドーナツ店でも自分が店長だったら、列よもっと伸びろってつい祈ってしまいそうです。