DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー6月号での連載「リーダーは『描く』」。第2回はシブヤ大学学長の左京泰明さんに登場いただいたいが、取材ではバックグランドの異なる4名の方々でワークショップを実施した。緊張感あり、笑いありの当日の様子をレポートする(構成・崎谷実穂、写真・鈴木愛子)。
アートでやることは、鑑賞と制作の2つしかない
春の日差しがやわらかく入り込む、赤坂のとあるビルの一室。今回の「リーダーは『描く』」のワークショップは、株式会社ホワイトシップのスタジオでおこなわれました。
このワークショップは、 “Vision Forest”という組織変革アプローチの一部で、アート教育の企画・運営やアーティストのマネジメントをする株式会社ホワイトシップと、ビジネスコンサルティング・サービスの株式会社シグマクシスが共同で提供しているプログラムです。本誌の連載「リーダーは『描く』」の取材では、この2社にご協力いただき、実際にワークショップの一部を実施していただいております。
参加メンバーはシブヤ大学学長の左京泰明さんと、その友人で場の発明カンパニーであるツクルバのCCO中村真広さん、新宿・歌舞伎町で清掃ボランティア団体を立ち上げた名物経営者・手塚マキさん、そしてこのワークショップをホワイトシップと一緒につくりあげたシグマクシスの斎藤立さんです。斎藤さん以外はもちろん初体験。
今日の意気込みを聞いてみると?
「依頼をいただいたときに、あらかじめ準備をしないでくださいと言われました。一番やってはいけないことは、前もって下書きしてくることだと(笑)。なので、完全に真っ白な状態で来ました」(左京さん)

左から手塚さん、左京さん、斎藤さん、中村さん
手塚さんからは「僕は、絵を描くことも今はじめて知りました……」という衝撃の発言が。期待と緊張が入り混じった空気のなか、ワークショップがスタートしました。
まずは鑑賞ワークから。スタジオはギャラリーも兼ねていて、このワークショップの考案者であるアーティストの谷澤邦彦さん(通称Kuniさん)の作品が、ずらっと飾られています。その1点を、みんなで鑑賞するのです。
3分ほどかけて、感想をポストイットに書いて貼っていきます。
“強いものと弱いもの” “動くものと動かないもの”という感想を書いた中村さん。「一部はすごく強いけれど、別の一部はすごく繊細でふわーっとしてる。その対比を見ていたら、だんだん動くものと動かないものに見えてきました」
斎藤さんも、対称的な2つのことを感じたそう。「狙っていないところで物事が成り立っている、偶然から新しいものが生まれたという感じがしました。一方で、丸の部分がすごく強い意志を持っていて、それが下の構造を動かしているのかもしれない、とも思ったんです」
手塚さんは“卵子” “海賊” “悪ガキ” “丙午” “妊婦” “ゆりかご” “かわいい” “あったかい”と、自由に発想を広げています。
一方の左京さんは、ぱっと見で“太陽とサボテン”に見えてしまい、それ以外の見方ができなくなってきてしまったと言います。
鑑賞ワークの目的のひとつは、無意識に影響を受けている「視覚バイアス」に気づくこと。1度何かに見えると、なかなかそれから逃れられない。こんな状況は日常生活の中でよく現れます。そしてその思い込みは、多様な意見にふれることではずせることもあります。左京さんも、他の3人の意見を聞いて、柔軟な見方ができるようになったようです。

通称Kuniさん
ここで、作者であるKuniさんの登場です。作品のタイトルは「めざめる」メンバーの感想の中には、Kuniさんが描き終わった時に感じたことと近いものもあったそうです。
Kuniさんいわく、「美術やアートは難しいものではありません。どんなに専門的になっても、鑑賞するか創作するか、どちらかしかやることはない。それを繰り返しているだけなんです。さて、早速次は創作のほうに入りましょう」。