仲間同士で、商品をあれこれ薦め合いながら買い物を楽しむ。ただしオンライン空間で、リアルタイムに――。人間同士の触れ合いを、eコマースに取り入れて成長する企業が台頭している。

 

 クリーブランド郊外で育った当時の私にとって、ショッピングモールはすべてだった。仲間たちと集う場所。初めて稼ぎを得た場所。そして芽生えてきた自立心を満足させる場所だった。そのモールはいま、閑散としている。店舗には空きが目立ち、わずかな買い物客の足音が辺りにこだまするほど静かだ。

 誰もが知っていることだが、ショッピングとは単に購買する行為にとどまらない。ある購買体験を他より優先させるのは、感情的・社会的な理由があるからだ。

 小売業者はオンライン化を急ぐ過程で、デジタル店舗によるコスト削減ばかりを考え、かつて大事にされていた人間同士のやり取りの多くを置き去りにしてきた。しかしデジタル事業における最新の潮流では、EC事業者は機能面のニーズにとどまらず、複雑な感情的・社会的ニーズを満たそうとしている。つまり、かつて人々をショッピングモールへと向かわせた「果たすべき用事(jobs to be done)」に目を向けているのだ。

 このアプローチを用いている典型例として、サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のウェディントン・ウェイ(Weddington Way)がある。オンラインでウェディングドレスを販売・レンタルする同社は、集団での購入体験を促進している。結婚パーティーの出席者たちは、離れた場所に住んでいても交流しながら買い物できるのだ。同社がウェブ上に設ける顧客専用の交流空間で、花嫁とその付き添い人たちは仮想のショールームを立ち上げる。そこで自分たちが着るドレスと色を見つけ、互いに推薦・投票もできる。スタイリストも配備されており、チャットでやり取りできる。同社は2014年前半だけで2万5000着のドレスを売り、収益は販売とレンタル料の合計で1000万ドルに達する勢いだ。

 また、オンラインでの購入に対する不安や疑念を払拭することに努めるEC事業者もいる。その一環として、ショールーミング現象(実店舗で商品を確認したのちにオンラインで購入)を逆手に取った体験の提供がある。ザッポス(靴)やワービーパーカー(眼鏡)などは、消費者に複数の試着品を送付して、客にお好みの商品を1つだけ購入してもらうという方法で利潤が生まれることを実証した。だが、ボノボス(Bonobos.com)などの企業はその一歩先を進もうとしている。実店舗でのサービスと、ウェブおよび携帯アプリとの統合だ。