ボノボスがメンズファッションのECサイトとして創業したのは2007年だが、急成長を遂げたのは最近になって実店舗を設けてからのことだ。ニューヨークを拠点とする同社は10都市で「ガイドショップ」と呼ばれるショールームを展開し、男性客がオンラインで服を購入する際の心配事を減らしている。不格好に見えないか。このシャツとあのタイは合うか。服のサイズはちょうど良いか。そもそも、どのサイズが適しているのか――。予約も受け付けるこのショールームは、結婚式用ドレスのショールームのような感じで、一部の商品のサンプルを置いているが全商品・全サイズを揃えてはいない。客は生身の「ガイド」による接客を受け、服選びと試着、適性サイズの注文、自宅発送を手助けしてもらえる。全商品の在庫を揃えないため、物理的空間は一般的な小売業者よりもはるかに小さくてよく、店舗のコストを大幅に抑えられる。こうしてオンラインでの幅広い品揃えと対面サービスという双方の利点を併せ持つことができるわけだ。このビジネスモデルのおかげで、ボノボスの年収は1億ドルに達するとされる。また、高級デパートのノードストロームと提携し、カスタム製品を200以上の店舗で販売している。

 また、一部のECスタートアップは「ソーシャルでのつながり」を収益化する新たなビジネスモデルを築いている。たとえばラボクラシー(Luvocracy)は、ユーザーが他サイトの服やファッションアイテムを会員に推薦するソーシャルショッピングサイトだ。友だちが推奨商品を気に入って「ラブ」を付けると、推薦者の「信頼度」が上がる。あなたが薦めた商品を誰かが購入すると、あなたには2%の報酬が入る。推薦商品を購入する「フォロワー」が一定の人数に達すると、推薦者は「テイストメーカー」(流行の仕掛け人)となり10%のコミッションを得る。

 オンラインの買い物客を販売員に変える、この非常に魅力的なモデルは早々にウォルマートラボの目に留まり、ラボクラシーは2014年7月にウォルマートに買収された(したがって既存のサービスは閉鎖)。その後ウォルマートのプランは明かされていないものの、この巨人がラボクラシーから学んだことを自社の提供するデジタル体験に取り込むのは間違いないだろう。

 大手小売のこうした関心は、ある明白な兆候を示している。上述のような洗練されたデジタルビジネスが、市場で新たな競争基盤を築いているということだ。もはや小売業者は実店舗でもオンラインでも、ただ安い/便利/豊富な品揃え、というだけでは成功は望めない。競争が激化するにつれて、これらの機能的な利点は必要最低条件でしかなくなる。新規参入者たちは、消費者の感情的・社会的な目的に応えるべく入念にデザインされた体験を提供している。それは既存の企業とビジネスモデルにとってハードルとなる。


HBR.ORG原文:Why Online Retailers Are Starting to Care About Your Feelings January 12, 2015

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ロビン・ボルトン(Robyn Bolton)
イノベーション戦略を専門とするコンサルティング会社、イノサイトのパートナー。