IoTの発展を牽引する、GEのインダストリアル・インターネット。その中核を担うGEソフトウェアは、2011年にゼロから出発した社内スタートアップだった。立ち上げから軌道に乗るまでを概観し、重厚長大企業がスタートアップ文化・ソフトウェア文化の取り入れに成功した理由を探る。

 

 あなたの会社は、「接続機能を持つスマート製品」の世界で競争する準備はできているだろうか。しばらく前から私たちの身の回りは、ビッグデータやアナリティクスがあふれスマート化が進み、モノのインターネットでいっそうつながり合うようになっている。そうした中で企業に求められているのは、データサービスを伴い、デジタル化によって顧客体験を向上させる製品の提供だ。だれもがソフトウェアの開発能力を早急に築こうと躍起になっている。こうした変化につきまとうリーダーシップや組織や文化の問題をどう克服すればいいのだろうか。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)は、この問題に取り組む企業の好例である。同社は10億ドル以上を投じて、カリフォルニア州サンラモンにソフトウェアのセンター・オブ・エクセレンス(最高水準の開発拠点)を設立した(GEソフトウェア)。自社製の産業用機械の高度化がもたらす、データの爆発的な増加を管理するためだ。CEOのジェフリー・イメルトは2011年に、GEはソフトウェア/アナリティクス企業になる必要があると宣言した。そうしなければ、情報技術を基盤とする競合他社に押されて自社のハードウェア製品がコモディティ化するという懸念があった。GEでチーフエコノミストを務めるマルコ・アヌンツィアータは筆者にこう語った。「もはや当社は、ジェットエンジンや機関車、風力タービンを販売するだけの企業ではありません。ハードウェアと共に、コスト削減や生産性向上のためのデータと実践的なソリューションを提供しています」

 そのためにGEは、1000人規模のソフトウェア技術者とデータサイエンティストを採用し、高度なソフトウェアとアナリティクスの技術をさまざまな事業に導入してきた。今ではソフトウェアおよびデータ関連の活動だけで年間10億ドル近くの利益を生んでいる。GEのような巨大コングロマリットがどうやってソフトウェアのスタートアップを立ち上げ、短期間で拡大できたのか。その概要を以下に述べる。

●新組織の立ち上げ
 イメルトが世界規模のソフトウェアセンターを作ると宣言した後、GEは物理的、組織的、文化的に大きな課題に直面した。誰が組織を率いるのか。拠点をどこにするのか。どんな組織を作るのか。既存の事業部との関係はどうなるのか。大企業の文化とどう折り合いをつけるのか。既存の組織は、新参者のソフトウェアセンターをよそ者扱いして受け入れないかもしれない――。問題は尽きなかった。

 最初にやったのは、トップに据える人材の採用だ。2011年、シスコシステムズ出身のウィリアム・ルーが選ばれた。選考基準で重視されたのは、イノベーティブなソフトウェアおよびサービス開発(商品開発ではない)の経験と、巨大かつ複雑な企業で新規事業をマネジメントする能力だ。ルー率いるチームは、GEのあらゆる機械をクラウドベースの効率的なプラットフォームに接続させるシステムの開発に乗り出した。ソフトウェアセンターをGEの既存の管理システムから自由にするために、独自の損益計算書を持つ1つの事業部とはせず、イメルト自身が10億ドルを投資する形でGEのグローバル・リサーチ・センターの一部として設立された。