イノベーションに不可欠なのは、創造的な「人材」か、アイデア創出を可能にする「プロセス」か。カギとなるHBR論文と著名企業の例から、ベストな方法を探る。

 

 飛躍的なイノベーションを生み出すためにより不可欠なのは、創造的人材の発掘か、それとも創造的なアイデアの発見だろうか? これはピクサーを率いるエド・キャットムルが数多くの人々に尋ねてきた質問だ。回答はおおむね五分五分に分かれるそうだ。

 キャットムルにとって、この結果は驚きであるという。8作連続で大ヒットの記録を打ち立てて間もない2008年、彼はHBRのインタビュー記事「ピクサー流 創造性を刺激する組織のつくり方」の中でこう述べている。人々は映画の原案(つまりアイデア発見)の重要性を過大評価するが、それよりも――彼の簡潔な言い回しをそのまま引用すれば――「人材こそ希少」であるという。

 HBRのアーカイブをたどると、この見解を抱くのは彼だけではないことがわかる。たとえば高級ファッションブランドLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)の取締役会長兼CEOベルナール・アルノーは、2001年のHBRインタビュー記事「LVMH:スター・ブランドの育成法」で明らかにキャットムルと同じ考え方をしていた。ディオールのトップ・デザイナー、ジョン・ガリアーノ(当時、新聞紙を素材にしたドレスを制作し話題となった)や、ルイ・ヴィトンのマーク・ジェイコブス(この年にハンドバッグのグラフィティ柄を発案)といった人材をマネジメントする自身の役割について説明する際、アルノーはこう語った。「当社のビジネスは全面的に、専属のアーティストやデザイナーに完全な自由裁量を与え、創造に制限を設けないことで成り立っています」

 この人材重視の陣営には、同じく2001年にIDEOに関する思慮に富む論文“Playing Around with Brainstorming”(未訳)を寄せたマイケル・シュレーグも名を連ねる。これは、その後HBRのページをたびたび飾ることになる「デザイン思考」に関する論文の嚆矢であり、その洞察は今も色褪せない。この年に刊行されたIDEO共同創設者デイビッド・ケリーの著書、『発想する会社!』を踏まえ、シュレーグは次のように論じている。IDEOのイノベーション能力は、ケリーが説明するところのブレーンストーミングや“ホットチーム”、ラピッド・プロトタイピングなどの方法論よりも、むしろ同社の文化に根差している。同社の各プロセスを促進しているのは、イノベーションに対する社員の激しい情熱だ。それが「普通ではなく、模倣するのが難しい」文化を形成している――。

 映画やファッション、製品デザイナーであふれている企業が、「イノベーションは人材次第である」という考えを歓迎するのは当然かもしれない。言い換えれば、このアプローチはエンジニアリング思考の強いイノベーション論者たちにはしっくりこないようで、彼らはHBRにおいて対照的な思想の系譜を形成している(そしてキャットムルの意見調査の残り半分、「アイデア発見」派を代表していると思われる)。