2つ目に焦点を当てたい脳の領域は、海馬である。我々の2011年のマインドフルネス・プログラムにおいて、被験者に灰白質の量の増加が見られた部位だ。タツノオトシゴ(ウミウマ)の形に似たこの部位は、大脳辺縁系――情動と記憶に関わる脳内構造物の総称――の一部であり、側頭葉の内側にある。海馬には、ストレスホルモンの1つであるコルチゾールと結合する受容体があるため、慢性的なストレスによってダメージを受ける恐れがあり、体内で悪循環を引き起こす原因となりうる。実際、うつ病やPTSDのようなストレス関連の障害を患っている人には、海馬の萎縮が見られる。

 これらの事実は、海馬がレジリエンス(逆境から再起する力)に深く関わる部位であることを示している。レジリエンスは、現在の厳しいビジネス環境においてカギとなる能力の1つだ。

 これらは研究成果のごく一部にすぎない。マインドフルネスを実践すると、知覚、身体感覚、疼痛耐性、情動制御、内省、複雑な思考、そして自己意識に関わる脳部位に変化を生じさせることも、神経科学者らは明らかにしている。長期的な変化を実証して根本的なメカニズムを解明するには、さらなる研究が必要ではあるが、これまでの一連の根拠には非常に説得力がある。

 いまやマインドフルネスは、企業のリーダーにとって望ましいのではなく必須であろう。脳を健全に保ち、自己制御と意思決定能力を支え、有害なストレスから自分自身を守るための方法なのだ。メンタル・トレーニングとして実践してもよいし、宗教や精神生活の一環として取り入れてもよい。腰を下ろし、しっかり呼吸し、「いまこの時」にただ集中することで変化が期待できる。これを集団で行えば、効果はより顕著になるかもしれない。

HBR.ORG原文:Mindfulness Can Literally Change Your Brain January 08, 2015


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クリスティーナ・コングルトン(Christina Congleton)
アクソン・コーチングでリーダーシップと変革のコンサルタントを務める。デンバー大学でストレスと脳の研究も行う。ハーバード大学で人間発達心理学の修士号を取得。

ブリッタ・K・ヘルツェル(Britta K. Hölzel)
マインドフルネスの神経メカニズムについてMRIによる研究を行う。マサチューセッツ総合病院とハーバード・メディカルスクールのリサーチフェローを経て、現在はミュンヘン工科大学に勤務。ドイツのギーセン大学で心理学博士号を取得。

サラ・W・ラザー(Sara W. Lazar)
マサチューセッツ総合病院精神科の准研究員。ハーバード・メディカルスクールの心理学助教も務める。ヨガと瞑想の効果をもたらす神経メカニズムについて、臨床現場と健常者の生活の両面における解明に取り組む。