HBS教授のビル・ジョージ は、「オーセンティック・リーダーシップ」、つまり誰かを真似るのではなく「自分らしさを貫くリーダーであれ」と提唱する第一人者だ。そこで必要となるのが、「マインドフルネス」(目の前の瞬間をとらえ認識力を高めること)だ。本記事でジョージは、マインドフルネス訓練法の一環として瞑想を勧める。
2008年に起こった世界金融危機を境に、私は多くのリーダーたちがこう望んでいるのを感じるようになった――「自分の個人的な価値観に沿って、リーダーシップを発揮したい」と。金融危機は、金銭的指標のみを成功の基準にする危うさを浮き彫りにした。そして多くのリーダーたちに、自分が「真に進むべき方向(True North)」を踏み外しているのではないかという強い不安を抱かせたのだ。
市場が高騰し報酬額が膨れ上がっていけば、増えゆく財産を祝福はすれどその過程を検証しなくなりがちだ。あまりに多くのリーダーが組織よりも個人の利益を優先した結果、顧客と従業員、株主の信頼を裏切って失望させた。私は新任のリーダーたちに、「自分の人間的価値を純資産で測るようになったら終わりだ」と助言している。それでもなお、多くのリーダーはこのやり方にとらわれたまま、それに気づいていない。
私自身も同じ罠に陥ったことがある。1988年、ハネウェルのエグゼクティブ・バイス・プレジデントだった私はトップへの道を歩んでいた。外部の基準に照らせば大いに成功していたが、自分のなかでは深刻な不満を抱えていた。当時は、他者に自分の能力を認めさせ、CEOになるための足がかりを築くことばかり考えていた。自身の内面を見つめて一個人およびリーダーとしての成功を考えることをせず、外的な成功基準にとらわれていた。行くべき道を見失っていたのだ。
私の同僚でハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンは、"How Will You Measure Your Life?" と題した論文でこのテーマを取り上げている(邦訳は本誌2011年3月号「プロフェッショナル人生論」)。彼によれば、キャリアの始めから不誠実に振る舞い他者を傷つける者はほとんどいないという。巨額詐欺事件を起こしたバーナード・マドフやエンロンのジェフ・スキリングでさえ、最初は誠実な人生を送ろうとしていた。しかしやがて、「この1度だけ」と言いながらルールに例外を設けていったのだとクリステンセンは述べている。
ハーバード・ビジネススクールで我々は生徒たちに、自分にとって成功とは何か、人生で重要なものは何かを深く考えることを課している。そして将来リーダーとなる彼ら彼女らに、特定の地位や資産の獲得を成功と見なすのではなく、自分の同僚や組織、家族、社会全体にポジティブな変化を与えることを成功と考えるよう促している。2005年に私が創設した「オーセンティック・リーダーシップの開発」(ALD)という講座は、いまやMBAの選択科目では最も好評を博している(現在この講座を教えている同僚たちのおかげだ)。この講座でMBAの2年生は、オーセンティック・リーダーシップへのプロセスに沿って、自分の理念、価値観、原則に基づいてキャリアを突き詰めて考える(拙著『リーダーへの旅路』でこの方法を紹介している)。最近では、グローバル企業の幹部の間でもALDが支持されている。