すぐに結果を出すよう求められがちな今日のビジネス環境では、長期的な目標と短期的な財務指標をバランスよく達成することが非常に難しい。リーダーとしての責任が増えるにつれて重要となるのは、地に足をつけ自分らしくあること、新たな課題に対して謙虚な姿勢で向き合うこと、そして仕事での成功と、より重要だが定量化しにくい一個人としての成功とのバランスを取ることだ。どれも口で言うほど簡単ではない。
日々生活を送りながら人生を管理する方法として、「マインドフル・リーダーシップ」の訓練がある。これは目の前の瞬間に注意を向け、自分の感覚と感情を――特にストレスに満ちた状況で――認識しコントロールするための訓練だ。マインドフルな状態では、自分の存在が認識でき、自分が他者にどんな影響を与えているかを自覚できる。一瞬一瞬を観察しながらもそこに参加し、自分の行動の意味を長期的な視点でとらえることができる。これによって、人生が自分の価値観から逸れるのを防ぐことになる。
ここで私は「訓練」という言葉を安易に使っているのではない。自己認識力を高め、目の前の瞬間を明確にとらえるには、心を平静にしなければならない。これはきわめて難しく、生涯を通しての訓練が必要だ。2012年に私は、オーセンティック・リーダーシップに関する持論をダライ・ラマ法王に申し伝えるという栄誉に浴した。自分らしさを貫くリーダーであるためには何が必要かをお尋ねすると、「訓練を毎日実践することです」とお答えを頂いた。
私が最も重視し実践している内省の訓練法は瞑想で、1日2回、各20分間を当てている。1975年に私と妻のペニーは、トランセンデンタル・メディテーション(通称TM、日本語では「超我瞑想」などと呼ばれる)のワークショップを訪れた。TMの精神面の教養を取り入れはしなかったが、身体面の訓練は日々の習慣として欠かせなくなった。以来、瞑想は私にとって天の恵みとなっている。20代の中頃からリーダーの役割を積極的に担いストレスを抱え始め、30代の前半で高血圧と診断された。そして瞑想を始めたところ、心の平静を保ちリーダーシップに集中できるようになった――自身の成功に寄与してきたと思われる強みを失うことなく、である。瞑想によって、一時とらわれていた些細な心配事の多くを振り払うことができ、真に重要なことを見極められるようになった。次第に自己認識が高まっていき、他者に与える影響に敏感となっていった。血圧が正常に戻ったまま維持されていることも、重要な効用だ。
近年では、医学的研究によって瞑想のさまざまな効果が発見されている。たとえば高血圧や関節炎、不妊症などの予防(英語記事)、ストレスの低減(英語論文)、注意力と感覚処理能力の向上などがある。また、学習、記憶、感情の制御、視点取得に関わる脳の部位が再生されるという報告もある(英語論文)――絶えざるストレスのもとで心の平衡を保とうとするリーダーにとって、これらは重要な認識能力だ。
瞑想は多くのCEOや企業に採用されているが、必ずしも万民向けではないかもしれない。重要なのは、リーダーとしての激しいプレッシャーから身を離し、起きていることを振り返るための、毎日決まった時間を設けることだ。瞑想以外の方法として、日記の執筆や礼拝を取り入れているリーダー、あるいはウォーキングやハイキング、ジョギングの最中に内省をしているリーダーもいる。私の場合は、妻のペニーに1日の出来事を話し、助言を求めることが大いに役立っている。
毎日の内省の習慣としてどの方法を選ぶにせよ、マインドフル・リーダーシップの追求を通して、自分にとって重要な物事を見極め、周囲の世界をより深く理解できるようになる。マインドフルネスによって、取るに足らない心配事を消し去ることができ、仕事への情熱と他者への共感を養い、組織内で他者に権限を委譲できるようになるのだ。
HBR.ORG原文:Mindfulness Helps You Become a Better Leader October 26, 2012
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ウィリアム・W・ジョージ(William W. George)
ハーバード・ビジネススクール教授。経営管理論を担当。メドトロニックの元会長兼CEO。著書に『リーダーへの旅路』(ピーター・シムズとの共著)がある。