筆者のクレイトン M. クリステンセンは『イノベーションのジレンマ』などで知られる経営学者だが、本稿はビジネスを論じたものではなく、彼自身が人生の意味を見つけるうえで役立った指針を、ハーバード・ビジネス・スクールの2010年の卒業生に語ったものである。この考えの根本にあるのは彼の厚い信仰心だが、指針自体はだれにでも活用できるため、HBRで紹介された。本稿では、クリステンセンが授業の最後に問いかけるという、3つの質問(経営の理論をキャリアや家族について当てはめてみる)を紹介し、人生の目的を考えることの重要性を説く。時間、エネルギー、能力という人生における資源の配分を考える際には、長期的な視点を持つことを勧める。また、間違った行為に伴う限界費用は、「この一度だけ」であればいつでも小さく思われ、それが、人生を誤らせてしまうとも警告する。そして最後に、人生を評価する物差しを持ち、人生の終わりに成功だったと評価できるように毎日を過ごすべきだと、アドバイスする。

なぜクリステンセンは人生について語るのか

 2010年に卒業した学生がハーバード・ビジネス・スクール(HBS)に入学してきた時、経済は力強く、卒業後の進路は無限にあるかのようだった。それから数週間も経たないうちに、景気は急激に悪化し、卒業生たちは過去2年間に自分の世界観や成功の定義を見直さなければならなくなった。

 彼ら彼女らは世界がどう変わったかを非常によくわかっているようだ(本稿で取り上げた見解のサンプルがそれを示している)。この卒業生たちは2010年の春、クレイトン・M・クリステンセン教授に講演を依頼したのだが、そのテーマは、教授の理論や思考をHBS卒業後のキャリアにどう応用するかについてではなかった。彼ら彼女らは、教授の教えを個人の生活にどう生かしたらいいかを知りたがったのだ。