表面上は順調でパフォーマンスも良いマネジャーが、実は深刻な喪失感や疲弊を患っているケースは少なくない。病める有能人材を復活させる最善の方法として本記事が提案するのは、上司との対話を通して連携を深めるというアプローチだ。
2014年、米債券運用会社ピムコのCEO兼共同CIO(最高投資責任者)モハメド・エラリアンは、注目度も報酬も高いその地位から突然辞任した。多くの識者の間に衝撃が走ったが、私は驚かなかった。
高い実績を上げ成功を収めている人が、時とともに仕事への情熱を失い、組織へのコミットメントもなくしていく――。さまざまな業界の幹部にコンサルティングを提供しながら幹部育成の研究も行う私は、これが珍しくないことを知っている。この現象を私は「エグゼクティブのブラウンアウト(電圧低下)」と呼んでいるが、エラリアンもこの症状にかかっていたものと思われた。
後に彼が明らかにした理由(ワークライフ・バランスを保つため)は、私の推測を裏づけるものだった(また後を追うように辞任した共同CIOビル・グロースとの対立も一因ではあろう)。
エラリアンが辞任を決めたのは、10歳の愛娘から1枚の紙を受け取った時だという。そこには、彼女の人生で大事だったのに父親が参加しなかった22のイベントが列記されていた(初めてのサッカーの試合、三者面談、ハロウィンのパレードなど。英語記事)。
「ブラウンアウト」(恒星の一生のある時期を指すこともある)は、「バーンアウト(燃え尽き)」とは異なる。なぜなら、この症候群に苦しむ知的労働者は一見すると、危機に瀕しているどころか、いたって順調のように見えるからだ。時差をまたいでの会議や電話に膨大な時間を割き、グローバル規模でチームを率い、あるいは支援しながら、精力的に仕事をこなす。(オフレコの会話はともかく)会議では常に的を射た発言をする。ところが、他者から見えない部分では常に疲弊した状態にあり、それが離脱につながるのだ。
我々のクライアントである企業幹部の大半は組織のエースというべき存在だが、その立場ゆえの代償がある。彼らが打ち明けるのは、次のような悩みだ。
「四六時中、絶え間なく続く責務による疲労感」
「長年の睡眠不足と不摂生による健康の悪化」
「家族関係の希薄化」
「古くからの友人関係の疎遠化」
「物事に対する興味関心の減退」
「仕事以外の会話に対する集中力の低下」
これらは明らかに「個人的」な問題だが、会社に対しても水面下で深刻なダメ―ジをもたらす。職場での行動に表れてくるからだ。我々は、ブラウンアウトを患ったリーダーが社内に悪影響を広める数々のケースを見てきた。たとえば無意識のうちに自分の縄張りに固執したり、成長につながる大胆なアイデアをつぶしたり、有能な部下(特に“B級”社員)に目を向けず絆を失ったりする。そして、ロールモデルだが魅力のない存在として、若い世代に面従腹背される。
では、企業はこうした問題にどう対処すべきだろうか。