報酬を上げても事態は改善しない。辞めやすくなるだけだ(エラリアンのように)。あるいは下級幹部の場合、報酬の増額は、不満を抱えた状態のまま「我慢」を続ける動機にしかならない。
重要な人材をつなぎ留めるには、別の形で報いる必要がある。我々はこれを「積極的な連携(active partnering)」と呼んでいる。その最初のステップは、幹部が上司に率直に話せる機会を作ることだ。そして上司は、仕事と私生活における最も重要な目標は何かを訊き出し、与えられた職務の中でそれらを達成するために会社がどうサポートできるかを話し合う。
毎年の業績評価の場はよい機会であろう。私生活での目標はいろいろと出てくるはずだ。養子を取る、本を書く、家族関係の不和を修復する、NPOを創設する、といった大きなものもあれば、10キロ走る、子どものサッカーチームのコーチをする、メンターとしてボランティアをする、といった日常的なものもあるだろう。仕事の目標は、新たな製品やサービスの立ち上げ、人間関係の強化、会社の抱える重要課題への取り組みなどだろうか。ポイントは、上司(ひいては会社)が自社の最も重要な人材と絆を深める、という目的の下に対話を進めることだ。
これを実践した企業は、エース人材のコミットメントと成果を劇的に高めることができる。考えてみてほしい。もしあなたの上司が、あなたの仕事上の能力開発を助けるだけでなく、養子のことや健康管理、愛娘とのアフリカへの体験旅行などを積極的にサポートしたらどうだろう。上司との関係、そしてチームや組織に対するあなたの思い入れや忠誠心は大きく変わるのではないだろうか。
懐疑的な人々は「そんな面倒なことはできるわけがない」と一蹴するかもしれないが、実は優秀なマネジャーは、必要に応じてすでにこれをやっている。また、組織的な施策として実践すれば絶大な効果があることも判明している。たとえば我々は4大会計事務所の1社で、包括的な幹部育成プログラムを1年にわたり実施した。シニアリーダー473人を対象に、職場でのパフォーマンス向上、健康管理、家族関係の改善に重点を置く内容とした。
その際、60人あまりの有能幹部が「積極的に転職を考えている」、または「1年以内に転職するつもりだ」と我々に打ち明けていた。ところが、数カ月にわたる上司との1対1のコーチングセッションを通して「積極的な連携」を実施したところ、その後5年間で実際に退職したのはわずか2人だった。そして62人のうち数人は、社内で経営上層部への昇進を果たした。
こうして会社は熟練の幹部たちをつなぎ留め、組織および市場に関する深い知識を手放さずに済んだのだ。かたや幹部たちは、各自にとって最も意義ある方法で活力を取り戻し、変化の激しい今日のビジネス環境でも高いパフォーマンスを維持する能力を新たに身につけた。
一例として、ある40代の有能なリーダーがいた。順調に出世して重要なプロジェクトを任されていたにもかかわらず、彼はキャリアの危機に直面していた。職場で深い喪失感を覚え、家庭でも居場所がなくなっていたのだ。さらに、度重なる出張とクライアントとの付き合いによる体重の増加にも悩んでいた。ところが、上司と積極的な連携を築いた結果、18キロの減量に成功。そして仕事の成果と貢献を次のレベルへと高める方法も、明確に描けるようになった。それから10年後、彼は同社のグローバルCFOとなっていた。
ピムコはエラリアンと共に、彼が私生活と仕事の両方で成功できるような、より持続的な方法を見出せなかったのだろうか。もちろん可能であったはずだ。しかし今問うべきは、なぜすべての企業が大切な幹部に対してそれをやらないのか、ということだろう。
HBR.ORG原文:Prevent Your Star Performers from Losing Passion for Their Work January 14, 2015
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マイケル・E・キブラー(Michael E. Kibler)
コーポレート・バランス・コンセプツの創業者兼CEO。幹部人材のハイパフォーマンスを持続させるための包括的なコーチングおよび育成プログラム、ピナクル・プログラムの開発者。