最大の困難は、正確な数字を計算することではない。概算の数字について合意を形成することだ。多くの企業を支援してきた我々の経験から言えば、経営陣の考える目標値はたいていバラバラだ。したがって、まずは各自に売上高の目標値を紙に書いてもらうことから始めるのが賢明だろう。その金額は驚くほど異なっているはずだ。
ステップ2に進む前に、あるべき目標値について合意が生まれるまでしっかり話し合っておきたい。ひとまず暫定目標と呼べる程度のものを設定できればよいが、どうにも合意の余地がなければしばらく保留しておこう。次の2つのステップで現在の事業の潜在力を測定すれば、より現実的な目標値のイメージができるはずだ。その時に再検討すればよい。
2.基幹事業の成長見通しを算出する
次のステップは、基幹事業の製品・サービスの潜在力をできるだけ正確に見積もることだ。最初に、その成長を可能にするすべての要素について、実現性をしっかり検証する。新しい地域市場へ進出することで売上げを増やせるか。現在の市場で新たな顧客にリーチしたらどうか。現在の競合企業から市場シェアを奪えるか。合理化によるコスト削減によって、利益を増やせるだろうか。あるいはプロセスの改善によってそれが可能になるか――。
このように書くと単純な問いに見える。しかし、将来の減収を招くかもしれない競争上の脅威を検討し始めると、この作業は極めて複雑なものになる。多くの企業は直接の競合相手を監視・警戒することには長けている。しかし代替品の脅威や、既存あるいは将来の破壊的イノベーターによる脅威の可能性については、特別な注意を払ってはいない。こうした脅威を把握するには、やがて自社に困難をもたらしうる破壊的変化の典型的な早期警報を、注意深く読み取る必要がある。次の6つの問いを検討するとよい。
①顧客ロイヤルティは低下していないか? 低下している場合、顧客にとって不適切な、あるいは支払う気にならない過剰な機能改善によって、市場と乖離している可能性がある。
②自社の業界に、ベンチャーキャピタルの資金が大量かつ継続的に流れ込んでいるか? 多くのスタートアップはたいてい失敗に終わるとはいえ、VCによる長期的な投資によって、その市場に破壊的な新規参入者が生まれる条件が整いやすくなる。したがって、投資資金の動きをチェックすることは脅威の可能性を見つける良い方法の1つである。
③自社の主要顧客から見れば劣っているような製品やサービスを、新規参入者が提供し、業界の末端やローエンド市場で成功しているか? 破壊的イノベーションを起こす企業は、自社の主要顧客や主要市場とは離れた場所で、一見すると無関係な形で現われることが多い。自社の市場や隣接市場で、複雑なものをシンプルに、あるいは高額なものを低価格で提供し始めた企業があれば注意しよう。
④業界のリーダー企業にとっては儲けが少なすぎるような、新たなビジネスモデルを採用している競合企業が1社でもあるか? 構造的に低価格で儲かるビジネスモデルは、市場に破壊的変化をもたらす原動力になる。
⑤業界のリーダー企業は、利益率の向上、ローエンド市場からの撤退、コスト削減などを実現しているにもかかわらず、売上高が減少していないか?
⑥顧客の習慣や嗜好に重要な変化が起きていないか? それは破壊者の強みを後押しするものだろうか?
長期的な変化の前触れを知らせる統計数値も、検討に値する。たとえばキッチン設備や配管のような建材を販売している企業であれば、新規住宅着工件数や住宅ローンの動向だ。自動車関連企業であれば、運転免許証を取得しない若者の割合などを見るべきだろう。これは戦略策定の典型的な領域だ。自社に戦略の専任担当者がいるならば、躊躇せずに数字や資料をどんどん借りるとよい。