3.新規成長事業への投資を集計する
基幹事業の成長予測を計算し、将来の競争上のリスクも現実的に加味した後は、新規成長の施策に現在どれだけ投資しているのかを厳密に集計する。新規成長の施策とは新たな顧客セグメントや市場を獲得するための、たいていは新たなビジネスモデルを伴う取り組みだ。そのすべての活動、それぞれの財務予測、それを実現するために必要な投資額を網羅して一覧にする。
我々の経験から言うと、すべての新規成長プロジェクトを厳密に追跡・把握している企業は少ない。それらをリストアップしていくだけでも、有意義な経験となるだろう。
たとえば数年前にあるアパレル企業は、新規成長の取り組みと位置付けるプロジェクトを綿密に検討したところ、残念ながら多くのプロジェクトは書類上存在するだけで、人員がまったく配置されていないことが明らかとなった。つまり、実際に取り組んでいる者はいなかったのだ。さらに、「新規成長施策」と銘打たれたそれらのプロジェクトの大多数は、既存市場における既存商品のマイナーチェンジにすぎなかった。新たな市場に新しい商品を提供する取り組みは、およそ30のプロジェクトのうちたった1つだけであった。
新規成長事業に関する正確なリストを作成したら、それぞれの財務予測と成功確率を掛け合わせ、リスク調整後の価値を見積もる。
これもまた単純のように思えるだろう。だが企業はたいてい、新規成長への投資のリターンについて非常に楽観視しがちである。心理学者はこの現象を「計画錯誤」と呼ぶ。多くの人間は取り組みの完遂までに要する時間とコストを少なく見積もってしまう、という現象で、たとえ自分の専門領域であってもこの傾向は当てはまる。新規成長施策には非常に多くの新しい要因がからむため、問題はさらに悪化する。たとえばあるプロジェクトで、①新たな顧客層を狙う、②まだ完成していない新技術に取り組む、③新たなパートナー企業と協働する、④新たな収益モデルを試してみる、といった活動が必要だとしよう。もしこの4つが計画通りにいく可能性がそれぞれ80%だとすると、全体での成功の見込みはたった40%になるわけだ。
この作業を厳密に行ううえで役に立つ、非常にシンプルな方法がいくつかある。過去の新規事業施策を振り返ってほしい。事前の計画通りに実行できたものはいくつあるだろうか? また、一般公開されている業界標準の数字を参考にするのもよいだろう。あるいは、VC業界のデータを知るだけもよい。新規事業のアイデアのおよそ75%は、投資家に資金を返還できずに終わるのだ。
成長の目標値について合意し、基幹事業の成長見通しを明らかにし、新規成長事業の潜在力を包括的に把握する。ここまでの大変な作業を終えたら、いま現在自社が行っていることと、将来達成したい目標との間にあるギャップを計算できる。
既存事業におけるリスクは今後高まり、新規成長事業のリターンは当初ほど楽観視できない――経営陣はこのことを認識し、予想外に大きな成長ギャップを目の当たりにすることになるだろう。だが、恐れる必要はない。むしろ、真摯かつオープンに成長ギャップを算出すれば、社内に変革の必要性が強く認識され、長期的にイノベーションへの関心が維持される。正確にギャップを把握することで、将来の成長に向けた投資をより適切に行えるだけでなく、時間を買うような戦略的買収の必要性が明らかになる場合もある。あるいはウォール街のアナリストたちに、改定した成長目標について(穏やかに)伝える必要が出てくるかもしれない。
イノベーションへの適切な投資額を算出する目的は、精度ではなく気づきを得ることである。したがって、この作業にあまり多くの時間をかけないように、というのが我々からの最後のアドバイスだ。骨太のイノベーション戦略と成長戦略を策定するために必要なこれらの情報や数字は、多くの場合1カ月もかけずに準備できるだろう。
HBR.ORG原文:Calculate How Much Your Company Should Invest in Innovation, December 17, 2014.