スタンフォード大の研究チームが、中国の大手旅行代理店で在宅勤務の実験を行い効果を検証した。パフォーマンスの向上と離職率の改善が顕著だったが、在宅勤務を経験後にオフィス勤務への復帰を望む従業員も非常に多かったという。その意外な理由とは?

 

 2013年にマリッサ・メイヤーが米ヤフーで在宅勤務を廃止した時、急速に広がりつつあるこの働き方のメリットとデメリットについて、メディアで激論がわき起こった。在宅勤務制度は従業員の怠慢を助長するのか、それとも現代の労働環境に見合った必須の手段なのか――賛否は拮抗した。

 この疑問に体系的かつ科学的な方法で答えを見出そうと、我々(スタンフォード大学教授および同ビジネススクール教授)は2名の研究生とともに、中国のオンライン旅行代理店の最大手シートリップで実験を行った。同社が在宅勤務制を試す動機として、まずオフィスのコスト削減(上海本社の賃料高騰により、オフィス維持費が全コストに占める割合が増加していた)、そして年率50%にも達していた離職率の改善という目標があった。しかし在宅勤務を許可すれば従業員のパフォーマンスに悪影響が出る懸念もあり、全社的に導入する前にテストしようと考えた。

 ここで情報を開示しておくが、研究チームにはシートリップの共同創業者兼会長のジェームズ・リアンが加わっている。そのため、実験データはもちろん、在宅勤務に関する経営陣の見解も存分に把握できるというめったにない幸運に恵まれた。おかげで、大手上場企業が新たな業務慣行をどのように導入するのかについて一定の知見が得られた。さらに、多くの企業が潜在的に有益な制度を採用するに至らない原因についても、新たな光を当てることができた。

 実験は、上海本社のコールセンターで航空運賃とホテルを担当する部門を対象に、9カ月かけて行われた。まず、6カ月以上の勤務経験を持つ従業員全員に、週4日自宅で勤務できるという選択肢を提示。参加資格のある508名のうち、255名が在宅勤務を希望した。くじ引きの結果、誕生日が偶数の従業員が在宅勤務を許され、奇数の従業員は対照群として引き続きオフィスで働くことになった。

 在宅組もオフィス組も、各自の勤務シフト、属する作業チームや上司はこれまでと変わらない。コンピュータでログオンするシステム、使う機器、作業フローも同じだ。つまり2グループの唯一の違いは、働く場所だけである。シートリップは各従業員について、実働時間、売上げ、顧客対応の質をコンピュータで克明に記録した。それらのデータによって、在宅組とオフィス組のパフォーマンスを比較することができた。

 さて、どんな結果が出たのか(英語論文)。第1に、在宅勤務者のパフォーマンスは劇的に向上し、9カ月間で13%もアップした。成果向上の主な要因は、休憩の回数と病欠の日数が減ったためにシフト内での実働時間が増えたことである。在宅組は単位時間当たりの生産性も高かった。詳細な聞き取り調査での回答によれば、自宅のほうが静かで働きやすいためだという。

 第2に、対照群のパフォーマンスには変化がなかった(オフィスで働くことによる悪影響も見られなかった)。第3に、在宅組の離職率は大きく改善し、対照群と比べて50%近くも減少した。さらに在宅組への心理調査では、仕事の満足度が大幅に高まり、消耗が少ないという回答が得られた。