eコマースとデジタル技術によって、ブランドの力は高まったのか、それとも弱くなったのか。M&Aの買収価格に占める「ブランド価値」と「顧客関係価値」を算出・比較すると、過去10年で前者はほぼ半減、後者は2倍に上昇しているという。

 

 eコマースの誕生以来、「ブランド」の今後の役割についてマーケティング専門家の間で意見が分かれている。一方の論陣は、デジタルテクノロジーがブランドの終焉を早めると予想してきた。顧客が購入意思決定に必要な情報に容易にアクセスできるようになるため、ブランドはそれほど重要でなくなる、というのが理由だ。これに相対する論陣は、情報過多の時代に選択肢を評価するわかりやすい指針として、ブランドの重要性は増すだろうと予言してきた。

 どちらの主張がより正しいのかを見極めるために、我々は2003~2013年に世界各地で実施された6000件以上のM&Aのデータを調べ、「ブランド」と「顧客関係」それぞれの価値の推移に注目した。企業価値評価のトレンドを調査するに当たりM&Aのデータが有益な点は、買収時の全資産のドル評価額が明らかにされていることだ。企業は事業を買収すると、会計・報告基準に従い、買収した各資産を勘定科目ごとに評価して貸借対照表に記載しなければならない。評価対象となるさまざまな資産の中には、ブランド(商標)と顧客関係も含まれている。

 下記のグラフは、ブランド評価サイトのマーカブルズのデータベースに基づき、ブランドと顧客関係それぞれの評価額を企業価値総額に対する割合として表したものだ。これらのパーセンテージは、PPA(買収価格を被買収企業の資産・負債に配分する会計処理)の専門家が正規の会計基準に従って実施した公正価値評価を元にしている。

 上記グラフに明白に表れているように、10年間でブランドの評価はほぼ半減(18%から10%に下落)したのに対し、顧客関係の価値は倍増(9%から18%に上昇)した。無形資産の他のカテゴリーについてはすべて安定的だった。これらの数値は、マーケティングの戦略的アプローチが過去10年間で劇的に変化したことを示している。すなわち買収側は明白な意図の下に、投資対象を「強いブランド」から「強い顧客関係」へと移してきたのである。

 かつて、多くのM&A戦略ではブランドが重視され、より優れた管理と国際化によってブランドを成長させることに力が注がれてきた。だが今日、こうしたブランド成長戦略は限定的にしか成しえない(たとえば成熟市場では成長の可能性に限界がある)か、またはあまりに費用がかかり過ぎるように見える。代わりに最近のM&A戦略で重視されるのは、強力な顧客関係を有する企業を買収し、付随する顧客ロイヤルティとクロスセルのメリットも享受することだ。