このトレンドを強力に後押ししているのが、さまざまなデジタルテクノロジーだ。それらを利用すれば、(1)顧客とのより直接的な交流が可能になり、費用のかかる中間業者を介さずに済み、営業とマーケティングのコスト削減につながる。(2)顧客ニーズに関する詳細なデータと分析に基づき、顧客ライフサイクル管理の最適化が図れる。(3)顧客のフィードバックを継続的に得られるため、バリューチェーン全体にわたって効率性と品質を改善できる。(4)テクノロジーによって2つのブランドの統合、またはリブランディング(ブランドの再構築)を促進できる。
こうした結果、顧客と直接的なエンゲージメントを築くためのマーケティング活動は、従来のブランド戦略やメディア・キャンペーンよりも相対的に安くなり、かつその有効性は高まったのだ。
一方、需要(顧客)側でも同様の進展が見られる。デジタル化によって、さまざまな情報(ブランドに関するものも含む)へのアクセスが容易になる。たとえば新車を物色中の顧客は、異なる車種の仕様と性能を即座に比較検討できる。したがって、購入意思決定においてファクトベースの判断が強くなり、ブランド・イメージに頼る度合いは低下している。顧客が「強いブランド」を好むという事実は変わらない。しかし今、「ブランドの強さ」を左右するのは、顧客が製品・サービスおよび企業との関係を通して得る、直接的な体験なのだ。
以上を踏まえれば、企業はブランド構築に向けているマーケティング資源を、顧客関係の強化を目的とした資源としっかり一体化させるべきだろう。製品・サービスそのものの価値と直結しない、単なる名称としての「ブランド」や「ブランド・イメージ」は今後ますます価値を失っていくものと我々は考えている。
ただしマーケティング担当者は、この変化に過剰反応して伝統的なブランド戦略への投資が過小にならないよう注意すべきでもある。ブランド・メッセージがますます個別化し多様化していくなか、それらを統合するものとしてブランド・エクイティは強くあり続けねばならない。強力なブランド・コミュニケーションは今後も重要であり、特に新規顧客を惹きつけるため、そしてより高い価格プレミアムの価値を訴求するために必要となる。
最後に、主要なブランド評価企業が現在公表している「世界で最も価値のあるブランド」ランキング等に関して、その真偽を検証するために我々の分析は役立つと思われる。価値の最大の構成要素は往々にして顧客関係にあることが、分析で明らかになったからだ。ブランド・エクイティとカスタマー・エクイティは、密接に関わっているとはいえ異なるコンセプトであり、別々に測定・報告されるべきものだ。ブランディングの要諦は、ブランド管理チームと顧客関係担当チームの間に摩擦を起こさず2つのコンセプトを統合することである。
ピーター・ドラッカーが述べたように、情報時代のはるか以前から、ビジネスの唯一の目的は顧客をつくり出すことだ。ブランド構築も当然、その手段にすぎない。
HBR.ORG原文:Why Strong Customer Relationships Trump Powerful Brands April 14, 2015
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クリストフ・バインダー(Christof Binder)
スイスを拠点とする知的財産のコンサルティング会社、トレードマーク・コンパラブルズAGのCEO。同社は2014年にブランド評価ポータルサイトのMARKABLESを開設。
ドミニク・M・ハンセンズ(Dominique M. Hanssens)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 アンダーソン・スクール・オブ・マネジメントのバド・ナップ記念講座教授。マーケティング論を担当。