ゾンビ・プロジェクトとは、まったく有望ではないのにダラダラと生き永らえているイノベーション活動である。これらを中止すれば、経営資源の効率化と組織学習という大きなメリットが得られる。
「そんなものは絶対に見つからない」と、数十億ドル規模の売上高を誇るIT企業の上級幹部は言った。
ここで言う「そんなもの」とは、有意義なイノベーション活動を害する最大の敵として世界中で見られる、「ゾンビ・プロジェクト」である。理由は何にせよ、当初の目的を達成できないにもかかわらずズルズルと存続している「死に体」のプロジェクトだ。戦略上も財務上も会社に貢献できる見込みは実質的にないまま、経営資源を浪費している。
このIT企業が革新的なアイデアをうまく事業化できないでいる理由の1つは、ゾンビ・プロジェクトが経営資源を浪費し、イノベーションのパイプラインを停滞させているためである――そう我々は提言したのだった。幹部は納得できない様子だった。
そんなものは絶対にない、と彼が考えた理由は、この会社には非常に厳格な計画策定プロセスがあるからだ。毎年多くの人員が数カ月を費やして、直近の業績を評価し今後の計画の妥当性を検証している。どのプロジェクトも丹念に精査されているのだから、ゾンビ・プロジェクトなどあるはずがないというわけだ。
ゾンビ・プロジェクトの発生には、特定のパターンが見られる。経営陣によって承認された時点では、その案件は間違いなく有意義だ。財務予測も――新規プロジェクトでは常に不確実とはいえ――妥当に思える。市場についての仮説は筋が通っていて、開発スケジュールも実現可能なように見える。
だがプロジェクトを進めていくなかで、何かが起こる。技術面で意図した通りにいかない。競合企業が思いもしない手を打ってくる。重要な事業パートナーが不参加を決める。顧客が想定外の反応を見せる――。
プロジェクトの担当者たちは、こうした出来事がマイナスであることを知りながら、取り組みが軌道を外れたと認めることがなかなかできない。人間は心理学者の言う確証バイアスに影響を受け、自分の期待に沿う情報には強い注意を向けるが、そうでない情報は無視する。さらに、失敗に気づいたとしても「感情ヒューリスティック」にとらわれる。つまり、その時の感情や思い込みにとって都合の良い情報を重視し、都合の悪い情報を無視しがちだ。
そうした不都合な事実が積み重なってきたタイミングで、プロジェクト担当者たちに自白剤を与えれば、この取り組みが会社の財務目標や戦略目標に有意義な貢献をしないであろうと認めるだろう。だが多くの企業の報酬制度では、コミットメントの未達に対し大きなペナルティが生じるため、担当者はみずから手を挙げ「私たちの取り組みは失敗しました」と言うことを躊躇する。それよりも、プロジェクトを継続させる方法を考えるほうが賢明だというわけだ。