我々は多くの時間をかけてこのIT企業を調査し、ゾンビ・プロジェクトの存続を図る担当リーダーがいかに巧妙に予算編成を歪めているかを知った。その手口の1つはこうだ。今後5年間での利益予想として大きな数字を打ち出す一方で、短期的にはごく控えめな投資を要求する。次の予算編成時にもこのプロセスを繰り返す。5年での利益予想は、計画策定プロセスで検証される2年という期間から外れるために常に安全となる。プロジェクトチームがコストをうまく管理している限り、すべてはうまくいく。なぜなら、長期目標を毎回示し続けること自体については――それがけっして達成されないものでも――ペナルティは実質的に生じないからだ。

 どんな予算制度にも盲点があるものだ。生き残ろうと必死な社内イノベーターたちは、巧みにそうした点を見つけてつけ込もうとする。この問題に対して、我々は「ゾンビ・プロジェクトへの恩赦」を実施するよう提案した。社員はこの恩赦期間に真実を告白でき、プロジェクトを見直し、中止となってもペナルティを受けないものとするのだ。この制度の重要なポイントは、コスト削減のために人員を減らすことではなく、より有望なプロジェクトに人員を再配置することで新たな成長への投資を図ることである。

 我々がこのIT企業の30余りのプロジェクトについて、現実的に見込める利益を試算して評価したところ、その2割が継続投資に値しないゾンビ・プロジェクトであった。ペナルティなしにそれらを中止することによって、より戦略的に重要なイノベーション活動を2年間支えられるだけの資金を捻出できたのだ。

 我々はHBRに寄せた論文「イノベーション体制をたった90日で構築する」のなかで、イノベーションを体系的に実行するうえで欠かせないものとしてこの恩赦に言及している。だがその実践は難しい。以下に6つの主な要諦を挙げよう。これらは我々の知見、そして我々と同じ問題意識を持つ学者たちの研究に基づくものだ(その筆頭はコロンビア大学のリタ・ギュンター・マグレイスである。もし「ゾンビ・キラー」なる認定資格があれば、彼女こそがふさわしい)。

 1.シンプルで透明性がある基準を、あらかじめ設定しておく

 プロジェクトの中止には、関係者のさまざまな感情が渦巻くものだ。実行の前に数項目からなる中止の基準を設定し共有することにより、関係者は中止を合理的と見なすようになるだろう。

 最も初歩的なものとしては、事業アイデアに関する3つの問いを我々は常に考えてもらう。①市場のニーズは本当にあるのか。②現在の競合企業、そして将来競合となりうる企業よりも、自社はそのニーズをうまく満たせるのか。③財務上の目標値は達成できるのか。

 ただしどんな基準であれ、それはあくまで指針にすぎず、規則とはしない。最終決定では常にある程度主観的な判断が必要となるだろう。

 2.部外者を関与させる

 親がわが子に対してそうであるように、プロジェクトの立ち上げに関わった人が客観的でいることは難しい。案件と関わりのない部外者、たとえば違う部門の人や社外の人に中止の手続きに関与してもらうことで、中立性という重要な面を担保できる。

 3.プロジェクトの解消を通して得た教訓を、体系化する

 マグレイスによれば、企業がイノベーションに取り組むと2つの成果が生まれる。1つは構想をうまく事業化できた(明らかに成功した)場合の成果。もう1つは、事業化に至らなかった場合でも、将来の成功にむけて何かしら学べることである。事後検証の場を設けて教訓を抽出し、それらを保存・共有するための生きたデータベースをつくるとよい。モデスト・メイディクらの研究でも、「失敗から得られた教訓はしばしば、その後の成功を後押しする」ことが示されている。ゾンビ・プロジェクトから知識を抽出し広めるために努力することで、過去の投資の見返りを最大化することになるのだ。