主力事業が低迷すれば、ますます資源を投入したくなる
知らない街に行ってランチを食べようと食堂を探すとき、混雑した店とガラガラの店があったとします。普通「込んでいるお店は美味しいに違いない」と混雑した店を選ぶことになります。これと同じ発想を市場参入の際にしてしまうと、海はますます赤く染まることになります。
では、ガラガラの食堂を勝算をもって選ぶには、何が必要でしょうか。それは、独自の価値に対するモノサシです。「人気のある店は美味しい」という見方は一つのモノサシとして、確かに正当性があります。株式市場の「美人投票」の原理もこれと似ています。しかし、物の見方は多様なように、違った視点で見ると独自の価値が見えてきます。新しい価値の基準を自ら定義する力がブルー・オーシャン戦略のカギなのでしょう。
その上で、企業にとって悩ましい問題があります。それは、既存事業の競争が激しくなればなるほど、新規事業へリソースが割けなくなるというジレンマです。どれだけ既存事業が縮小傾向だとしても、自社のポートフォリオ上、そこでの利益が大きな割合を占める場合、会社全体の屋台骨を支える事業に資源を1円でも多く投入したくなります。
これがレッド・オーシャンをますます濃く染めてしまう要因ですが、そのために新しい市場の創造に資源を投入できなくなります。既存事業での安定的な収益源をもたないスタートアップ企業はそこが強みとなって、ブルー・オーシャンを目指すインセンティブが働く一方、既存の大企業は逆のバイアスがかかってしまいます。
「大は小を兼ねる」の格言は、企業の競争にどこまで当てはまるのでしょうか。『[新版]ブルー・オーシャン戦略』の発売と併せ、ハーバード・ビジネス・レビューの最新号では、著者へのインタビューも収録したブルー・オーシャン特集を組みました。大企業が既存事業での競争に苦しむなか、いかにブルー・オーシャン戦略へと舵を切るか。この課題に対しても、本誌がお役に立てれば幸いです。(編集長・岩佐文夫)





