一般企業にIT技術者が少ない日本、多いアメリカ

――先ほどのスーパーの事例をはじめ、アメリカでは「IoT」の実用化が日本よりはるかに進んでいます。アメリカと日本で差がついた理由はどこにあるのですか。

   最も大きな理由は、日本では一般企業にIT技術者がほとんどいないことです。前述した「ターゲット」は、インドで3000人ものIT技術者を抱えています。それに対して日本のIT技術者は、IT企業に偏っています。一般企業にいるIT技術者の数はアメリカのおよそ1割と言われています。こうしてみると、アメリカの一般企業は、そもそも大勢のIT技術者を抱えるほど、ITの活用が活発だったわけです。

 日本の企業がIT技術者を増やしていくには、まず、システム部門のIT技術者と「IoT」に関わるIT技術者はまったく違うと認識することです。システム部門の技術者に求められているのは保守。24時間、何事も起こらないことが何よりも重要です。一方、「IoT」のIT技術者が担うのは「変革」。たとえシステムがダウンしてでも新しいことをやりたいといったチャレンジ精神が必要です。この2つは、まったく正反対の仕事なので、システム部門とIoT担当者は違う部門に分けるべきでしょう。

  ところで、どれだけ素晴らしいパートナーを見つけても、どれだけ正確にデータ収集をしても、実際に「答え」が出てくるかどうかはわかりません。前述したバルブの例でも、振動のモニタリングを10年やってみたが、結局、メンテナンスの役には立たなかったといったことは十分ありうるわけです。とにかくやってみなければわからないという世界なのです。

  私は、「IoT」の担当者は、アメリカの「海兵隊」のようなコンパクトな精鋭組織であるべきだと考えています。海兵隊は、陸海空のすべての機能を備えており、敵地に真っ先に乗り込みます。同様に、「IoT」担当者は切り込み隊として新市場に乗り込むわけです。成功すれば業界全体にメリットが行きわたるし、失敗すれば討ち死にです。まさに突撃隊の海兵隊。ですから、私はIoT担当者に「とりあえず行け、そして死んで帰ってこい」「何度でも行け」と声をかけて鼓舞しています。

――IoT部門の位置づけは、社長室直轄のような立場がいいのでしょうか。

  そうですね。とにかく「IoT」で集めたデータは、時には商売そのものの性質まで変える可能性を秘めています。ミシュランは、運送会社向けにタイヤを売るのではなく「PAY BY THE MILE」という走った距離に課金するシステムをスタートしました。これは製造業からサービス業への転換です。データを収集すれば、このような事業の再定義ともいえる大変革を引き起こすことができます。ですから、「IoT」に取り組む際は、まず、トップが中心になって会社をどう変えたいのかを決める必要があるわけです。