●顧客に警戒心を抱かせ、反発を買いやすい
顧客がプライバシーの問題にたえず大きな懸念を抱き、信頼性が強く問われるこの風潮のなか、カスタマイズされたマーケティングはどんな形であれリスクを伴う。「自分のことがマーケターに知られすぎている」と顧客が感じたら、アルゴリズムによるパーソナライゼーションは薄気味悪がられ、極めて逆効果に働く。フェイスブックは「今年のまとめ」機能でフィードをカスタマイズしてくれるが、このような悪意のないものでも場合によってはユーザーを深く傷つける(英語記事。「今年のまとめ」はユーザーがアップした写真を自動的に選び、その年のハイライトとして投稿を作成してくれる機能だ。あるユーザーが、死去した娘の写真でその年のハイライトを作成された悲しみをブログで公表して波紋が広がり、フェイスブックの担当者から謝罪された)。
●自己満足を助長する
顧客に関するデータを網羅的にとらえ、行動の詳細を定量化し、反応を測る――これらを可能にするツールを手にしたマーケターは、あたかも自身が顧客を熟知し、その動機や購買のきっかけを理解したかのように勘違いすることがある。そうした自己満足は、測定が容易で過去に奏功したマーケティング活動のみに終始してしまうという弊害につながる。最悪の場合、極めて不正確な顧客像が描かれ、検討の足りないマーケティング提案がつくられ、無関心な顧客にアプローチして資源を無駄に費やすことになる。
●顧客の感情的な反応がないがしろにされる
If-Thenルールはその性質上、意思決定の分析を行う(たとえば「あなたが35~45歳で、住宅ローンの20%に当たる頭金を払ったばかりなら、HELOC〈持ち家の純資産価値を担保とする与信枠〉を設けるべきだ」など)。マーケティングのアルゴリズムは、顧客の意思決定が分析的になるよう後押しするということだ。しかし、多くの顧客は衝動的に選択を行い、楽しさや多様性などを基準に判断し、直感的・感情的に反応する。つまり即興的なコミュニケーションにこそ、顧客とブランドが有意義かつ強い関係を築く機会があるのだ。
アルゴリズムによるマーケティングは、顧客の思考パターンをよりロジカルで秩序立った方向へと導く。換言すると、感情的なつながりを築く機会が最小限になり、顧客の行動パターンが限られてしまう。それがマーケターにとって不利益となるのだ。
では、マーケターはこれらの問題を解決するにはどうすべきか。その答えは、顧客とのコミュニケーションに人間的な要素を十分加えることである。
顧客への働きかけに人間らしさを加える方法はいろいろある。コミュニケーションに実際の人間を介在させる、あるいはアルゴリズムをより人間らしく機能させるなどだ。