1.コンテキストを理解し、カスタマイズしたオファーにそれを反映させる
効果的なマーケティングとはすなわち、顧客を動かすコンテキスト上の要因をたえず探求し続けることである。その方法の1つは、フィールド実験と観察調査を通じて、コンテキスト上のさまざまな要素の影響を頻繁にテストすることだ。そこで得られた結果をマーケティング施策に反映させれば、アルゴリズムの精度を高められるかもしれない。より多くのルールを設定し、それらがより柔軟に適用されるようにするのだ。そして別の重要な意義もある。マーケターがアルゴリズムに頼らず顧客に対応できるような、プロセスと活動を構築できることだ。
動揺している顧客に、無料カクテルを進んで提供する接客スタッフ。新しいソフトウェアの購入者に対し、使用目的を確認し完全に理解したうえで、時間をかけて丁寧に使い方を教えるスタッフ。こうした人員はアルゴリズムには決して提供できない価値をもたらす。フォンデュ料理のチェーン店であるメルティングポットは、まさにこのアプローチを採用している。接客スタッフとマネジャーは各自の裁量で無料の食べ物やカクテルなどを出すことができ、優れた顧客体験を提供しているのだ。
2.マーケティングに意外性を取り入れる
アルゴリズムが得意とするのはパターン化されたマーケティング活動である。四半期ごとに送るクーポンやカタログ、毎週のメール、1日に2度の定期ツイートなどだ。このようなマーケティング提案は規則的すぎて、顧客は慣れきって無視するようになるため効果が薄れてくる。しかしマーケティング活動に不規則性やサプライズを取り入れると、アルゴリズムの束縛を破り顧客の退屈を防げる。予期せぬタイミングで電話をかけたり、突然新商品を発表したり、発売の時期をずらしたりすることで、ブランドの個性や人間味、刺激を強調できるのだ。想定外の働きかけによって顧客はより多くの選択肢を求めるようになり、ブランドに対する感情を動かされる。
カナダのTDバンクは昨年、ATMを「ありがとうのマシーン(Automated Thanking Machine)」に変えてみせた。ATMを使おうとするたくさんの顧客に、20ドル札や花束、さまざまな商品を(実際に機械の中から現れる形で)プレゼントして驚かせ、称賛を得てソーシャルメディアでも大きな話題となった(動画)。
3.顧客の重要な意思決定や体験に関わる場面では、人間同士のコミュニケーションを取り入れる
共感力に富み、エンパワーされた有能な人間に、取って代われるテクノロジーはこれまで誕生していない。だからこそ、ファッションやホテルや自動車を含む高級ブランドは、販売とサービスにおいてテクノロジーよりも人間の力を非常に重視する。予算の枠内において、マーケターは顧客体験のどこに、どうやって人間によるコミュニケーションを組み込むかを熟考しなくてはならない。ファイナンシャル・プランニング、商品の推薦、建物のセキュリティなどの分野では、高度なアルゴリズムが人間をサポートするハイブリッドの方法が見られる。これらは、アルゴリズムによるマーケティング活動に人の手を加える効果的な方法といえる。
HBR.ORG原文:The Perils of Algorithm-Based Marketing June 17, 2015
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ウトパル・M・ドラキア(Utpal M. Dholakia)
ライス大学ジェス・H・ジョーンズ経営大学院ジョージ・R・ブラウン記念マーケティング講座教授。