データを通じて自らを変革させることの重要性

――機械学習をビジネスで活用するうえで、どのような問題が起こりうるでしょうか。

 機械学習を活用する際に忘れてはいけないのは、すべてをアルゴリズムに任せてはいけないということです。アルゴリズムはビジネス戦略を支援するツールに過ぎません。つまり、機械学習の方向性をガイドできるような、データを解釈できる人材が必要なのです。

 機械学習の導入で成功する企業・失敗する企業には、大きな違いがあります。それは、自らが機械学習を導入できる状況にあるか、適切な自己評価が行えるかどうかという点です。機械学習は、往々にしてテクノロジーの問題と誤解されがちですが、人材やプロセス、その企業の組織文化などあらゆるものが関わってきます。

――では、そのために企業はどう変わらなければいけないのでしょうか。

 まずは、自社が保有するデータが、顧客や施設などと同様に、自社の資産として扱われているかどうかを確認してください。そのうえで、データ・サイエンティストのように事実を基にデータを扱える人材への投資を正しく行っているかどうか。そして最後に、保有しているデータを生かすプロセスが社内できちんと動いているかのチェックも欠かせません。

 ここで重要な役割を果たすのがデータ・サイエンティストです。技術やアナリティクスを理解しているだけでなく、ビジネスを理解し、ビジネスとデータ保有者の間のギャップを埋めるコミュニケーション能力まで兼ね備えた人材でなくてはいけません。データは保有しているだけでは資産とはならず、他の資産と同様に十分なケアを施し続けることが必要なのです。

――機械は、データを投入すればするほど学習します。そのため機械学習の分野では、大量のデータを収集できる大企業のほうが有利になるように思いますが、いかがでしょうか。

 必ずしもそうとは言えません。データは、ビジネスを変えるチャンスをもたらすと同時に、自社の変化を促す要素も有しています。しかし大企業は往々にして変化への足取りが重いことが多い。特に他社との差別化を可能にするデータは外部に存在することが多いのですが、自社の変革を通じてそうしたデータをすぐに取り込むことができるか、というと疑問です。

 たとえば、現在世界中のタクシー業界に激震をもたらしている配車サービスアプリ「ウーバー」はどうでしょう。シリコンバレーでたった2人で起業したときは、ソフトウェア以外は何もありませんでした。データは外部から次々に集まってきて、いまや時価総額500億ドルを超えるまでに急成長しました。データを通じて自らを変革させることの重要性は、同社の事例を見ても明らかだと思います。