ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第15回はMITメディアラボ教授であるアレックス・ペントランド氏の『ソーシャル物理学』を取り上げる。
データは常識を覆す
意思決定の精度を高めることは可能なのか?そんな疑問に答えたのが、アレックス・ペントランド氏が2013年にHBRに寄せた“Beyond the Echo Chamber”(邦訳はDHBR2014年3月号「他者の意見をいかに判断に取り入れるか」)という論考だった。多様な情報源から新しいアイデアを集めた後、他の人々にそのアイデアをぶつけ、反応を見ながら成功や失敗を学習する――そのような「社会的探索」を行うことで、意思決定の質を高められるという。この結論はオンライン・トレーディングのプラットフォームで集めた膨大なデータをもとに導き出されたものだった。
今回取り上げるのは、そのペントランド氏の最新作『ソーシャル物理学』である。冒頭の研究のように、「ビッグデータ」が流行る以前から、膨大な社会実験を行い、そのデータから普遍的な答えを導き出すのが、彼の研究の特徴でもある。
本書に登場する数々の社会実験のデータから得られた事実には、私たちが組織やチームを運営するにあたり「常識」と思っていたことを覆すものも多い。一例を挙げよう。集団も、個々のメンバーが持つ知性とは別の、集団的知性を持っているという。この集団的知性を測るため、ブレインストーミングや意思決定、計画策定を集団で行い、データが集められた。そこから見えてきたのは、集団を賢くする要素は「会話の参加者が平等に発言しているかどうか」だったのである。団結力やモチベーションといった、集団を賢くしそうな要素には、統計学的に有意な効果は認められなかったという。