企業がイノベーションを推進するうえで、犯しがちな過ちとは何か。局所的な施策、アイデア頼み、プロセスと資源の欠如など、6つの注意点を自社に照らし合わせ検証してみよう。

 

 ある消費者向けヘルスケア企業は、新たな競合企業の台頭という明らかな問題に直面していた。経営陣は、イノベーションをいっそう強化しなければならないとの結論を下した。過去20年にわたり、同社はシックスシグマの全社的な実践に注力してきたため、最良のアイデアがあれば、それを実行できる準備は整っているのだという。

 我々(コンサルティング会社イノサイトのメンバー)は、彼らにこう助言した。その目標を実現するために必要なのは、「システムによってシステムを変える」ために一連の施策を慎重に練り上げることだ。つまり、一貫したイノベーション戦略を策定し、それを堅実なプロセスに落とし込み、それを可能にする体制をつくること。さらに、イノベーションを後押しする行動・思考が歓迎される文化も醸成する必要がある。

 経営陣が選んだのは……伸縮性の布地を身にまとうことだった。

 同社で創造性の向上を支援するコンサルタントが、こう言ったのだという。会社は新たな時代の幕開けを迎える。そこで経営トップにいる全員が、「イノベーションのスーパーヒーロー」のコスチュームを着るべきだ、と(英語記事。なおご参考までに、IBMが制作した「イノベーションマン」の広告動画も参照)。

 経営陣がやったのは、それだけだった。イノベーションに特化したリソースも確保せず、何らかの仕組みも、研修も、インセンティブも設けない。会社がどの分野に努力を集中させるべきかも、明確にされなかった。

 経営陣にとって唯一の救いだったのは、コスチュームという「施策」(もちろん何の効果もなかった)がスマートフォンの普及前であり、動画に残されずに済んだことだ。コスチュームを着ること自体に反対するつもりは毛頭ない。楽しさや遊び心は、イノベーションの文化を育むうえで重要だ。しかし現実には、当然、その答えはもっと複雑である。

 イノベーションとはシステムレベルの問題だ。したがって「点」の解決策、すなわち1つの施策によって変革を広く促進しようという試みはまったく効果がない。たとえば、危機に瀕している学校の再生に挑んでいるとしよう。生徒たちは学業への関心を持たず、教師たちは途方に暮れ、設備も荒れ放題という状態を、「校舎の壁一面を青く塗装する」という方法だけでは解決できないのと同じだ。気分は落ち着くかもしれないが、実質的な効果は見込めない。

 古びた校舎を青く塗りつぶすに等しい事例を、我々は数多く見てきた。イノベーションによって自社の成長力を高めたいリーダーは、次のことを同時にやらねばならない。イノベーションを戦略的に指導し、厳密さをもって進め、リソースを集中的に投じ、プロジェクトを入念に観察・管理し、慎重に育てていくことだ。

 その実行はもちろん簡単ではない。企業に最も共通する過ちの多くは、スティーブ・カーが古典的マネジメント論文で述べたことと見事に一致する。すなわち、「Aという目標がありながら、それと一致しないBという指標の達成に報いる愚行」である。

 以下に、我々が最も頻繁に見る6つの過ちを挙げよう。