多くの企業がオープン・イノベーションに積極的だが、その成果は限定的だ。議論を完全にオープンにすると、独自の新鮮な発想よりも「他者への同調」が優先されるからだ。それを防ぐ仕組みを設けるだけで結果に大きな差が生じる。

 

 BMWからクラフトフーズ(現クラフト・ハインツ)までさまざまな企業が、消費者からアイデアを引き出す「オープン・イノベーション」に多くの努力を注いできた。しかし期待ほどの成果は上がっていない。

 たとえばデルのフォーラムサイト、アイデアストーム(IdeaStorm)に寄せられた2万3000件を超えるアイデアのうち、実用化されたのはわずか2%だ。またスターバックスの場合、マイ・スターバックス・アイデア(My Starbucks Idea)に投稿された提案は20万件(うちフラペチーノの新フレーバーに関する提案が6000件)に上るが、実施率はさらに低い。

 企業はもっとよい成果を上げられるはずだ。我々の研究結果では、フォーラムの参加者に同じテーマのアイデア群が共有されないよう、手立てを講じることがカギとなる。ブレーンストーミングにつきまとう、厄介な力学が存在するからだ。

 通常、消費者から集合的にアイデアを募れば、同じ消費者に提案箱への提出を個別に依頼する場合と比較して、より積極的な参加と豊かな創造性を喚起できる。だが、こうした集まりにはおのずと「社会的収束」(social convergence)が働くため、その創造性にはすぐに限界が生じる。参加者たちが同じアイデア群を目にする結果、新鮮な洞察を提供するよりも、むしろ互いの提案に同調するようになるのだ。また一部の参加者は、「自分のアイデアは冷笑されるのではないか」と心配するあまりに、あるいは少数の饒舌家に会話を牛耳られるために、沈黙してしまう。

 オープン・イノベーションにとって幸いなことに、現在のオンライン環境を利用すれば、この問題の克服が容易になる。

 ポイントは、まったく同じ顔触れが同じ経験をする状態、すなわち「クラスター」の形成を回避することだ。たとえば、マイクとベスには互いのアイデアを理解して話し合ってもらいたい。また、ベスにはダンとも同様のやり取りをしてもらいたい。だが、ダンには一巡してマイクのアイデアに戻ってもらいたくはない。したがって、それぞれが知り得るアイデアの組み合わせが同一にならないようにする。それによって各自の独立性を保持し、社会的収束を回避しやすくするのである。

 参加者全体のグループ間のつながりを限定的にすることで、ある程度の多様性が確保されると同時に、同調圧力が小さくなる。交流の数を十分に保ちながら、コミュニケーションを(大小の規模を問わず)グループ全体で分散的に生じさせることができる。

 これを実現するには、クラスター化を阻止するソフトウェアが必要になる。それを作成するのは難しくなく、我々も研究の一環でみずから開発できた。その機能は、どの参加者も同一のアイデア群を共有しないようにすること、そして交流相手の顔触れが同じにならないよう徹底することだ。