我々は、ある架空の会社がより優れたモバイル・バンキング用アプリの開発を試みているという想定の下にアイデアフォーラムを立ち上げて、当該ソフトウェアを適用した。

 募集に応じた参加者たちを複数の「クラスター」群と「非クラスター」群にランダムに分け、各グループの構成人員を10人から15人とする。ディスカッション開始時に参加者全員が最初のアイデアを出すが、非クラスター群ではそのアイデアは各人の両隣の人だけが見られる。その後、全員に追加のアイデアを出すよう求めるが、まったく新しい内容でも、また最初のアイデアの発展バージョンでも構わないとした。

 中立的な審査委員会の判定によれば、非クラスター群の提案のほうが、クラスター群よりも創造的で、かつ売れる見込みも高かった。換言すれば、つながりとコミュニケーションが少ないほうが、イノベーションが促進されたということだ(英語論文)。

 これを実際の場面に置き換えれば、デルの場合はアイデアストームのセッションに手を加えるべきだということになる。つまり、全員があらゆるアイデアやコメントにアクセスできるやり方を改め、開示に制限を設けるべきなのだ。そうすればデルはR&Dを強化でき、最終的に大きな見返りが得られるはずだ。

 もちろん、デルを含めいかなる企業も、アイデア採用後はその内容を率直に明かす必要があるだろう。さもなければ、フェイスブックのように論争を巻き起こすことになりかねない(2014年に同社が一部のユーザーのニュースフィードを操作し、情動感染の実験を行って非難されたことを思い起こしてほしい)。自社の考えを説明し、割り当てがランダムであることを強調し、各セッションの終了時には提出されたすべてのアイデアを参加者が見られるようにするのが、賢明なやり方だ。

 また、クラスター化の抑制を維持できるのであれば、参加者同士の交流関係を時間の経過とともにランダムに入れ替えてもいいだろう。そうすれば、セッション初期に友人同士が互いの投稿を見逃していても、ふたたび交流できるチャンスが生まれる。

 ここまではクラスターに限って論じてきたが、ソフトウェアを利用すればその他の調整も可能になる。たとえば、セッションにまったく貢献していない人、または貢献しすぎている人を、フォーラム内の他の場所に移動させることもできる。時間の経過とともに、参加者たちをテーマ別や製品カテゴリー別に割り当て直してもよい。あるいはよりよい結果が出るのであれば、全体をシャッフルして、グループを多様化しても構わない。参加者がそうした編成に慣れたら、企業はリアルタイムでさまざまなアプローチを試せるようになる。ユーザー体験の実験をたゆまず繰り返しているアマゾンのように。

 実験は簡単なので、上記のような編成操作は、一般的なチャットグループをはじめいかなる種類のオンラインフォーラムでも機能しうるはずだ。さまざまなアプローチを比較できるように、結果を評価する何らかの測定基準さえあればよい。テクニカルヘルプのフォーラムさえ恩恵を受けるかもしれない。そして、企業が顧客エンゲージメントのためにオンラインフォーラムへの依存度を増すにつれ、ソフトウェアによる編成は、やがてソーシャルメディア戦略の重要なツールになる可能性もある。

 消費者とのオープン・イノベーションに取り組む理由はさまざまだ。アイデアの募集、そして提案されたアイデアへの投票は、既存の製品・サービスへのフィードバックとして役立つ。また、参加を通じて消費者とブランドの絆を強めることにもなる。フォーラムを立ち上げる行為自体が、ブランドの強化につながることさえある。世間につまらないというイメージを持たれている企業の一部は、主に自社の面目を保つためにオンラインでの意見を求めているのではないだろうか。

 だが、R&D促進のためにオープン・イノベーションの活用を真剣に考えるのであれば、制限を設けることではるかによい成果を生み出せる。それは製品に関するアイデアばかりでなく、顧客体験全体についていえることなのだ。


HBR.ORG原文:People Offer Better Ideas When They Can’t See What Others Suggest July 24, 2015

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アンドリュー・スティーブン(Andrew Stephen)
オックスフォード大学サイード・ビジネススクールのロレアル記念講座教授。マーケティングを担当。

ピーター・パル・ズブセク(Peter Pal Zubcsek)
フロリダ大学の助教。マーケティングを担当。

 

ジェイコブ・ゴールデンバーグ(Jacob Goldenberg)
イスラエルのヘルツリーヤにあるインターディシプリナリー・センターの教授。マーケティングを担当。